研究実績の概要 |
【実施事項①】分子気体力学の運動論的方程式に対する特性線法の実装をおこなった.具体的には,支配方程式としてBoltzmann方程式のモデルであるBhatnagar-Gross-Krook(BGK)方程式,境界条件として拡散反射条件を採用し,空間3次元の軸対称問題を取り上げ,その解析を進めた.境界形状は厚さの無視できる薄い円板とし,また,無限遠方では一様流の条件を与えた.ただし,流れは分子の熱速度に比べて十分に遅く,支配方程式および境界条件の線形化が許されるとした.この問題設定では,代表的な2つの従来手法,すなわち差分法と特性線法のハイブリッドスキーム[e.g., H. Sugimoto and Y. Sone, Shinku 32, 214 (1989)]とDirect Simulation Monte Carlo(DSMC)法の適用が困難であり,精密な数値解析には本研究課題で提案する特性線法による解析が有用である. 【実施事項②】速度分布関数の不連続を捉える方法としては,本研究課題で提案している特性線法の他にも,速度分布関数の不連続を含む部分と含まない部分に速度分布関数を分解し,前者を解析的に,後者を数値的に扱う方法[e.g., S. Naris and D. Valougeorgis, Physics of Fluids 17, 097106 (2005)]が提案されている.この手法をスプリット法と呼ぶことにする.スプリット法はハイブリッドスキームより実装が簡便で,特性線法より計算コストが小さいため,一見すると有利な方法である.しかし,速度分布関数の導関数の不連続を取り除くことが出来ないという点を考慮すると,この方法は速度分布関数の特異性を完全に捉えることは出来ていないと考えられる.本研究では,このことを定量的に確認する数値計算をおこなった.
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