研究課題/領域番号 |
22K18830
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
古川 愛子 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00380585)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | 構造ヘルスモニタリング / 振動特性の高精度推定 / ベイズ推定 / 数値実験 / 実橋実験 |
研究実績の概要 |
前年度の検討により,部分空間法の有効性が確認されたが,部分空間法に加えてSSI法,FDD法の精度を検証した.まず,単純な線状構造物と簡単な外力を用いた数値解析により検討を行った.単純梁が外乱により振動している状況で,梁に打撃力を与えたときに,固有振動数を精度よく推定できるかどうかを,部分空間法,SSI法,FDD法によって検証した.部分空間法は入力情報と出力情報の両方を用いるが,打撃後の自由振動波形を用いるため,打撃力は0とした.SSI法,FDD法はともに出力のみを用いる手法であり,入力については,入力と出力が無相関,または入力の自己相関関数のホワイト性を仮定している.外乱を微小振幅のホワイトノイズでモデル化したところ,固有振動数と減衰定数の推定精度は,部分空間法が最もよく,次いでFDD法,SSI-COV法の順であった.モード形状の推定精度は,FDD法の推定精度が最も高かった.推定できるモード次数については,部分空間法が最も高い次数まで推定できた.しかしながら,外乱の振幅を大きくするにつれて,固有振動特性の推定精度が下がったが,部分空間法の推定精度が最も大きく悪化したのに対し,SSI-COV法,FDD法の推定精度はさほど大きく悪化しなかった.さらに実験では,部分空間法の推定精度が最も悪く,固有振動数,モード形状はFDD法の推定精度が最も高かった.減衰定数はいずれの手法でも精度が低かった.この理由として,部分空間法ではガウスホワイトノイズを対象としたものであるのに対し,実験データに含まれるノイズはホワイトでないために,部分空間法の前提となる条件が満たされていないことが原因であると考えられる. また,構造特性を確率論的に推定するベイズ推定のプログラムを作成した結果,FDD法はばらつきが小さく,かつ平均値が真値に近く,3手法のなかではFDD法が最も良い結果となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々なアプローチを試した結果,計測ノイズや外乱がない理想的な状況下では極めて高精度に推定する手法,計測ノイズや外乱があっても良好な精度を保つ手法など,区分することができた.傾向として,Covarianceベースの推定手法の精度が高く,様々な手法の特性を把握することができた.また,ベイズ推定のプログラムを作成し,確率論的な評価も可能となるなど,今年度計画していた解析プログラムを完成することができた.指令通りに振動台が振動しない問題が発覚したため,外力の入力方法を変更するなどして対処した.
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今後の研究の推進方策 |
様々な実験結果の分析から,固有振動数の推定精度は比較的高いこと,減衰が小さい構造物ではモード形状の推定精度も比較的高いこと,減衰が大きい構造物ではモード形状の推定精度が低下する傾向が認められた.減衰によってモード形状の推定精度が異なる理由は解明できていない. 固有振動数の推定では,粘性減衰を仮定しているが,そもそも粘性減衰の仮定が成立しないために,減衰が大きいときにモード形状の推定精度が低下するのか,減衰の大小によって推定精度が異なる理由を検討したいと考えている.理由を明らかにした上で,モード形状の推定精度を改善するための方法を検討したい. 構造同定や損傷検出の精度向上に貢献するため,モード形状の推定精度を向上させる方法について検討したい.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度,数値計算による検証でなかなか良い結果が得られず,試行錯誤を繰り返した.数値計算で良い結果が得られていない推定手法を実験データに適用しても良い結果が得られるとは考えにくいため,手法の開発に専念し,実験による検証を今年度に延期した.これにより,次年度使用額が生じた.今年度は,推定手法に関する検討が進み,前年度に実施予定だった実験データによる検証と,今年度に実施を予定していたベイズ推定に関する研究を実施したが,実験データを併用するなど効率化できたため,次年度使用額が生じた.次年度,次年度の研究課題に取り組むだけでなく,今年度明らかとなったモード形状の推定精度の問題を解決するために,次年度使用額を効率的に使用したい.
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