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2022 年度 実施状況報告書

グースヘンシェンシフトの近接場検出による高感度単一分子計測手法の開発

研究課題

研究課題/領域番号 22K18958
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

早澤 紀彦  国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90392076)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2024-03-31
キーワードグースヘンシェンシフト / 近接場光学 / 表面プラズモン
研究実績の概要

従来のセンサー感度は「ナノモル」や「ピコモル」等のモル濃度で議論されることが多い。ナノ・ピコ表記は高感度を示すよう聞こえるが、分子数で表記すると、10^11~10^14個という途方もない数であり、濃度表記が採用されているといえる。つまり分子数で議論するようなセンシングは不可能であるとも言える。本課題では、新規分析手法である角度グースヘンシェンシフト (Angular Goos-Hanchen Shift: A-GHS)に基づく屈折率センサーにおいて、近接場検出を世界で初めて融合させ、モル濃度で表現されていた感度を革新的に向上し、分子数レベルの感度表記を可能とすることを目的としている。究極的に1分子感度の達成を目指しており、本課題で開発する分析手法は、昨今のSARS-CoV-2といったウイルス検出需要に応えるだけでなく、あらゆる分子種に対して適応できる汎用性の高い手法となり得る。2022年度は、従来開発してきた常温大気圧中A-GHSシステムを、バイオセンサー応用を念頭に液中環境で測定可能になるよう装置設計を行い、液中環境用セルをA-GHSシステムに組みこんだ。また、従来のA-GHSでは、入射光を固定し、試料と検出器がそれぞれθ、2θ回転することで入射角度依存測定を行うが、検出側で近接場測定を行うためには、検出側を固定し、入射側と試料を回転する必要がある。そのため入射光を偏波保持光ファイバーで回転ステージに導入できるように設計開発を行った。
一方、近接場検出は、金属探針を用いた散乱型近接場顕微鏡技術を用いる。ラマン散乱や蛍光等の周波数変換を伴う検出光ではなく、入射光と近接場散乱光の周波数が同一であるため、非常に強い背景光から微弱な近接場散乱光を検出する必要がある。金属探針を試料面垂直方向に励振し、散乱光をロックイン検出することで近接場成分を高効率で検出する設計を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

液中環境で測定可能なA-GHSの開発のため、高い化学安定性を有するダイフロン材により溶液を内包できる小型のセルを設計し、これをA-GHS用半球プリズム及び試料に密着させ、水中及びエタノール中でのA-GHS測定が可能であることを確認した。本測定では、入射光を固定し試料と検出器がそれぞれθ、2θ回転することで入射角度依存測定を行っていた従来の測定系を、試料を水平に固定し、入射光と検出器がθ、-θ回転するように設計し直した。これは、液中セルの設計上試料を回転できないためであるが、今後の近接場検出では、検出器側を固定する必要があるため、入射光と試料を回転させる必要があり、液中用セルも含めた再設計が必要となる。一方、入射光の回転に関しては、偏波保持ファイバーで入射ビーム回転用ステージに導入できるようになったため、この手法は近接場検出においても活用できる。
一方、近接場検出に用いる金属探針を用いた散乱型近接場顕微鏡技術では、金属探針の垂直方向励振のため、特にqPlusセンサー方式の非接触型AFMの開発を行った。qPlusセンサーで用いる金探針を、100um径金ワイヤの電解研磨エッチングにより行った。通常STM探針として用いる250um径のワイヤでは、探針重量が大きくなり、AFMにおける探針励振共鳴が得られず、100um径とした。250umと同等の条件でのエッチングによる先鋭化に成功した。作製した金探針を自作マニピュレータによりqPlusセンサー基板にマウントし、共振周波数~20kHz、Q値~700を確認した。ここで金探針無しのqPlusセンサーは~32kHzの共振周波数を有し、金探針重量により大きく共振周波数シフトしていることがわかった。今後、25um径についても検討する。

今後の研究の推進方策

A-GHSに関しては、検出器側即ち近接場計測を行う側のステージを固定し、安定的にA-GHSした反射ビームの位置変化を近接場計測する必要がある。即ち、試料及び入射光をθ, 2θ回転するように設計を行う。この際入射光に関しては、現行システムと同様に偏波保持ファイバーで入射ビームを回転ステージに導入できる予定であるが、試料に関しては現状のセル設計では回転させることができない。そこで、ポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いた新たな液中セル設計を行う。新たな設計では、液中セルサイズを可能な限り小さく設計し、即ち分析物が極微量で済むよう想定し、さらに分析物をシリンジ及びシリンジポンプを用いて定量的にセル内に注入及び排出できるように設計する。
一方、近接場検出に関しては、非常に強い背景光から微弱な近接場散乱光を検出する必要があるため、金属探針を試料面垂直方向に励振し、散乱光をロックイン検出することで近接場成分を高効率で検出する。特に赤外領域での散乱型近接場顕微鏡技術で実績のある、共振周波数の高次高調波でロックイン検出する手法をA-GHSの可視光域に応用する。
これら、A-GHSの回転機構と近接場検出の測定機構を統合し、金薄膜上に形成した自己組織化単分子膜(SAM)によるA-GHSの反射ビームの位置シフトを高感度で検出する。分子長の長いSAMから短いSAMに変化させつつ、A-GHSの近接場検出感度の評価を行う。

次年度使用額が生じた理由

ステージ加工等に使用する合金材の入手に時間を要することとなり、次年度に購入することとした。研究計画にはほとんど影響しない。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2023 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (1件)

  • [国際共同研究] フィリピン大学ディリマン校国立物理学研究所(フィリピン)

    • 国名
      フィリピン
    • 外国機関名
      フィリピン大学ディリマン校国立物理学研究所
  • [雑誌論文] Probing Strain and Doping along a Graphene Wrinkle Using Tip-Enhanced Raman Spectroscopy2023

    • 著者名/発表者名
      Balois-Oguchi Maria Vanessa、Hayazawa Norihiko、Yasuda Satoshi、Ikeda Katsuyoshi、Nguyen Tien Quang、Escano Mary Clare、Tanaka Takuo
    • 雑誌名

      The Journal of Physical Chemistry C

      巻: 127 ページ: 5982~5990

    • DOI

      10.1021/acs.jpcc.2c08529

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Megahertz repetition rate-based lock-in detection scheme for rapid data acquisition in terahertz time domain spectroscopy2023

    • 著者名/発表者名
      Balgos M. H.、Hayazawa N.、Tani M.、Tanaka T.
    • 雑誌名

      Review of Scientific Instruments

      巻: 94 ページ: 043002~043002

    • DOI

      10.1063/5.0138938

    • 査読あり
  • [学会発表] Analyzing Strain and Doping in Monolayer Graphene Wrinkles by Tip-Enhanced Raman Spectroscopy2022

    • 著者名/発表者名
      Maria Vanessa Balois-Oguchi, Norihiko Hayazawa, and Takuo Tanaka,
    • 学会等名
      SPIE Optics + Photonics
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Analyzing Strain and Doping in Monolayer Graphene Wrinkles by Tip-Enhanced Raman Spectroscopy2022

    • 著者名/発表者名
      Maria Vanessa Balois-Oguchi, Norihiko Hayazawa, Satoshi Yasuda, and Takuo Tanaka,
    • 学会等名
      JSAP-OSA Joint Symposia in The 83rd JSAP Autumn Meeting
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] プラズモン増強ラマンによる多様な環境下におけるナノスケール界面分光2022

    • 著者名/発表者名
      早澤紀彦
    • 学会等名
      日本化学会 第73回コロイドおよび界面化学討論会
    • 招待講演
  • [学会発表] Surface Plasmon Resonance-enhanced Angular Goos-Hanchen Shift sensor in multiple environments2022

    • 著者名/発表者名
      Cherrie May Olaya, Norihiko Hayazawa, Nathaniel Hermosa, Takuo Tanaka,
    • 学会等名
      日本化学会 第73回コロイドおよび界面化学討論会
  • [学会発表] 金属電極近傍の蛍光色素の分光測定: 蛍光と共鳴ラマンの同時計測2022

    • 著者名/発表者名
      横田 泰之, Raymond A. Wong,Misun Hong,早澤 紀彦,金 有洙,
    • 学会等名
      第83回応用物理学会秋季学術講演会
  • [学会発表] 色素/スペーサー/金属電極界面における蛍光と共鳴ラマンの同時計測2022

    • 著者名/発表者名
      横田 泰之,Raymond A. Wong,Misun Hong,早澤 紀彦,金 有洙,
    • 学会等名
      第16回分子科学討論会
  • [学会発表] Analyzing the strain and doping in graphene wrinkles via tip-enhanced Raman spectroscopy in ambient2022

    • 著者名/発表者名
      Maria Vanessa Balois, Norihiko Hayazawa, and Takuo Tanaka,
    • 学会等名
      理研シンポジウム 第10回「光量子工学研究-ポストコロナ時代の新しい光科学」
  • [学会発表] Megahertz frequency lock-in detection scheme for rapid data acquisition in terahertz time domain spectroscopy2022

    • 著者名/発表者名
      Maria Herminia Balgos, Norihiko Hayazawa, Masahiko Tani, and Takuo Tanaka,
    • 学会等名
      理研シンポジウム 第10回「光量子工学研究-ポストコロナ時代の新しい光科学」
  • [学会発表] High sensitivity sensor based on surface plasmon resonance-enhanced angular Goos-Hanchen shift2022

    • 著者名/発表者名
      Cherrie May Olaya, Norihiko Hayazawa, and Takuo Tanaka,
    • 学会等名
      理研シンポジウム 第10回「光量子工学研究-ポストコロナ時代の新しい光科学」
  • [学会発表] Direct identification of point defects in LT-GaAs by STM/STS measurements and DFT calculations for THz device applications2022

    • 著者名/発表者名
      Akihiro Izumi, Mary Clare Escano, Maria Herminia Balgos, Tien Quang Nguyen, Elizabeth Ann Prieto, Elmer Estacio, Arnel Salvador, Armando Somintac, Rafael Jaculbia, Takashi Furuya, Hideaki Kitahara, Norihiko Hayazawa, Yousoo Kim, Masahiko Tani
    • 学会等名
      40th Samahang Pisika ng Pilipinas (SPP) Physics Conference
    • 国際学会
  • [備考] 個人ホームページ

    • URL

      https://sites.google.com/site/hayazawa/

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公開日: 2023-12-25  

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