従来のセンサー感度は「ナノモル」や「ピコモル」等のモル濃度で議論されることが多い。ナノ・ピコ表記は高感度を示すよう聞こえるが、分子数で表記すると、10^11~10^14個という途方もない数であり、濃度表記が採用されているといえる。つまり分子数で議論するようなセンシングは不可能であるとも言える。本課題では、新規分析手法である角度グースヘンシェンシフト (Angular Goos-Hanchen Shift: A-GHS)に基づく屈折率センサーにおいて、近接場検出を世界で初めて融合させ、モル濃度で表現されていた感度を革新的に向上し、分子数レベルの感度表記を可能とすることを目的として新規手法開発を行った。2022年度は、従来開発してきた常温大気圧中A-GHSシステムを、バイオセンサー応用を念頭に液中環境で測定可能になるよう装置設計を行い、PDMSを用いた液中環境用セルをA-GHSシステムに組みこんだ。また、従来のA-GHSでは、入射光を固定し、試料と検出器がそれぞれθ、2θ回転することで入射角度依存測定を行うが、検出側で近接場測定を行うためには、検出側を固定し、入射側と試料を回転する必要がある。そのため入射光を偏波保持光ファイバーで回転ステージに導入できるように設計開発を行った。2023年度は、先の液中動作A-GHSを論文としてまとめ(Applied Optics誌)、一方の要素技術である近接場検出手法の開発を重点的に行った。ラマン散乱等の周波数変換を伴う検出光ではなく、A-GHSによる入射光と近接場散乱光の周波数が同一であるため、非常に強い背景光から微弱な近接場散乱光を検出する必要があった。金属探針を試料面垂直方向に励振し、散乱光をロックイン検出することで近接場成分を高効率で検出する設計を行い、実験実証を行った。
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