研究課題
ヒトゲノムは半分ほどが「トランスポゾン(転移因子)」と呼ばれるゲノム内を動くことができる塩基配列で占められており、ゲノム構造の多様性と生物進化に大きな影響を与えている。中でもレトロトランスポゾン LINE-1 (Long Interspersed Nucleotide Element-1) は、自身の配列にコードされたタンパク質を使用して、自身のコピー配列を合成し、新たなゲノム領域に「転移する(増える)」ことができる唯一の自立型トランスポゾンである。興味深いことに、この「LINE-1 転移」は脳の神経前駆細胞で高頻度に観察されており、「脳の多様性(個性)」と「神経障害」の機能的二面性を生み出している可能性が指摘されている。しかしながら、 LINE-1 の転移メカニズムと神経機能の関連性は未解明である。本研究は、生物進化の原動力のひとつである転移因子「LINE-1」が引き起こす「脳の多様性」と「神経障害」の機能的二面性に着目し、その ON-OFF スイッチを核酸高次構造である「グアニン四重鎖(G4)構造」が担うことを実証する萌芽的研究である。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者は、LINE-1 RNA の 3’UTR に形成される G4 構造が「逆転写不全」の原因であることを発見した。G4 構造はグアニンが豊富な配列領域で形成される核酸高次構造であり、 LINE-1 ORF2p 逆転写酵素による伸長を物理的に阻害する。従って、完全長である転移活性型 LINE-1 ssDNA の産生が減少し、断片化 LINE-1 ssDNA の産生が増加する。完全長 LINE-1 はさらなる転移による「多様性・生物進化」に繋がる。一方、研究代表者は細胞ストレスによる G4 構造の過形成により「逆転写不全」が亢進することで、断片化 LINE-1 ssDNA が産生増加し「神経障害」を引き起こすことを見出した。つまり、G4 構造が LINE-1 を介した多様性と神経障害の ON-OFF スイッチを担うと考えられる。
1) LINE-1 転移を評価できるレポーターアッセイを用いて「G4 逆転写スイッチ」を解析する。レポーターアッセイにより「逆転写不全」を評価する。2) いくつかの生物種における LINE-1 の 3’UTR 配列解析を行い、 G4 構造の形成と断片化 LINE-1 の転移頻度の相関に関するバイオインフォマティクス解析を行う。3) 物理化学的解析 (CD スペクトル、 RNase T1 フットプリントアッセイ) により LINE-1 における G4 構造の生物進化と構造形成の相関を検討する。4) in vitro 転写により各種 RNA を合成し RT-qPCR を行い、G4 構造形成と DNA 産生量の相関関係を解析する。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Science Advances eade2035
巻: 9 ページ: eade2035
10.1126/sciadv.ade2035.
CNS Neurosci Ther.
巻: in press ページ: in press
10.1111/cns.14120.
Nucleic Acids Res. 8143
巻: 50 ページ: 8143-8153.
10.1093/nar/gkac580.
Trop Med Health.
巻: 50 ページ: 6
10.1186/s41182-022-00422-7.