研究実績の概要 |
本研究は、琉球列島沿岸に形成されているタコ類の高密度分布域「オクトポリス」について、その実態とそこに暮らすタコ類の動態を社会性の観点から探ることを目的としている。今年度は、1)オクトポリスにおけるソデフリダコの個体間相互交渉の野外検証、および2)社会性に関わる脳領域の比較解剖学的検証を実施した。項目1)では、沖縄本島沿岸の岩礁帯を経時的に野外調査した。その結果、ソデフリダコは1回の調査あたり3個体から30個体観察された。また、個体識別標識付けした計14個体のうち、標識装着13日後に放流地から約10m離れた場所で1個体が確認された。さらに、3日間連続して同じ巣内にいた個体や2週間後も同じ巣にいた個体を確認した。また、隣接した巣や、巣外での接触・伸腕行動など相互交渉、他種タコ類への接近や接触など種間相互交渉も観察された。このように、本種の野外での個体間相互作用を明らかにできた。項目2)では、ソデフリダコの脳をmicro-CTで観察した。CT画像から、視覚学習、記憶に関係する領域である垂直葉(vtL)、上前葉(sfL)、腕から得られた情報の処理に関わる下前葉系(INFF)を特定した。本種ではvtL, sfLという視覚学習に深く関わる脳葉の容積が大きく、触覚に関わるINFFの容積が小さかった。また、形態的な特徴として、vtL後端の発達が確認された。さらに、これらの結果を他種のタコ類と比較したところ、ソデフリダコの脳は単独性と考えられるタコ類と独立した脳の形質を示した。これは、群れを作る社会性のツツイカ類に近い脳形態であった。これらの脳形態の特徴は、ソデフリダコに見られる社会性や生態に大きく関わっていると考えられた。
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