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2023 年度 実施状況報告書

リゾリン脂質受容体を標的としたGPCR創薬2.0

研究課題

研究課題/領域番号 22K19371
研究機関東京大学

研究代表者

志甫谷 渉  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (30809421)

研究期間 (年度) 2022-06-30 – 2025-03-31
キーワードGPCR / リゾリン脂質受容体 / クライオ電子顕微鏡法
研究実績の概要

リゾホスファチジルセリン (LysoPS) は細胞間の情報伝達を担う脂質メディエーターの一種であり, 生体内ではホスファチジルセリンのアシル基の一本が切断されることで産生される。LysoPSは一本のアシル基とリン脂質頭部にセリンを持つ脂質である。LysoPSはGPR34と呼ばれる受容体を活性化することで免疫系のはたらきを調節するため, とくにがんや感染症への対策として研究が進められている。しかし, 真にGPR34のリガンドであるのかについては反論があり, LysoPSが分子レベルでどのようにGPR34を活性化するのかについては不明だった。
そこで私たちはLysoPSがなぜGPR34を活性化できるのか解明すべく, その立体構造を決定した。GPR34のリガンド結合ポケットは, リガンドの頭部を認識する親水性ポケットと, 炭化水素基を収容する疎水性ポケットから構成されていた。親水性ポケットでは, LysoPSのセリン部分は極性アミノ酸残基との水素結合を形成して密に認識されていた。このセリン特異的な相互作用が, GPR34がさまざまな脂質の中でLysoPSのみを受容しシグナルを伝える理由であると考えられる。一方炭化水素基は, 4番目と5番目の膜貫通ヘリックス注)によって形成された溝にある疎水性ポケットに収容されていた。GPR34のリガンド結合ポケットは,この溝を介して細胞膜側(横向き)に開いていた。LysoPSは細胞間接着を介して膜上を移動すると考えられおり,実際に, LysoPS産生酵素(PS-PLA1)を作用することで, GPR34は外からLysoPSを加えなくても活性化する。このことから, 細胞外側からの経路ではなく、細胞膜側からのLysoPSのアクセスがGPR34の機能に重要であることがわかり(図,右下), 受容体研究に大きな一石を投じる成果となった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

研究当初に計画していたLysoPS受容体だけではなく、LPA受容体の構造も決定したため。リゾホスファチジン酸受容体1(LPA1)は、生理活性脂質であるリゾホスファチジン酸(LPA)によって活性化される6つのGタンパク質共役型受容体の一つである。LPA1は、がん、炎症、神経因性疼痛など様々な疾患の創薬ターゲットとなっている。特に、LPA1アゴニストは、肥満や尿失禁の治療薬としての可能性を秘めている。本論文では、LPA1に対してより強力な活性を持つLPAアナログであるONO-0740556と結合した活性型ヒトLPA1-Gi複合体の低温電子顕微鏡構造について報告する。今回の構造解析により、LPA1-Giのアゴニスト結合様式と、膜貫通セグメント7および中心疎水性コアの再配列を介した受容体活性化メカニズムの詳細が明らかになった。LPA1と系統的に関連する他の脂質感受性GPCRとの構造比較から、LPA1の脂質嗜好性の構造決定因子が同定された。さらに、受容体-タンパク質界面における構造多型の特徴を明らかにし、Gタンパク質解離プロセスを反映している可能性を示した。本研究により、LPA1とアゴニストとの結合メカニズムの詳細が明らかになり、LPA1を標的とした薬剤様アゴニストの設計への道が開かれた。

今後の研究の推進方策

創薬モダリティが多様化した現在でもGPCRは最も重要な創薬ターゲットの一つである。GPCR創薬の主な担い手はこれまで低分子であったが、近年,低分子化合物GPCR創薬の成功確率は低下している。詳細は後述するが、申請者は本研究の共同研究企業エヌビー健康研究所と共同でGPCR機能を制御することが可能な機能性抗GPCRモノクローナル抗体(mAb)を効率よく作製する手法の確立とこの手法を用い作製した機能性mAbの創薬展開を進めている。今後はLPA1とLPS1に関して申請者がこれまで取得してきた複数の機能性mAb、結合mAbとGPCR結合様式をクライオ電顕で決定することでmAbが機能性を発揮する機構(アミノ酸残基)を解析(同定)する。さらに、この情報に基づきmAbの超可変領域にアミノ酸変異を導入することで、より機能性を高めたmAbの創生、結合mAbの機能性mAbへの変換を目指す。さらに、このストラテジーを掻痒惹起に関与する酸化リン脂質GPCR、MRGX4に応用し、抗ヒスタミン薬抵抗性掻痒に対する創薬を実施する。本研究はすでに進行中であり、既に多くの予備的知見を得ている。本プロジェクトによる機能性mAbの効率的産生手法の確立はGPCRにとどまらず、抗体医薬開発を目指すさまざまな分野への波及効果も期待できる。

次年度使用額が生じた理由

LysoPS受容体GPR34の構造と機能について論文にまとめて2024にnature commに報告したものの、査読に長い時間がかかりそのための対応やリバイズ対応の実験によって、予定していた実験計画が進まなかった。また、新たにGPR34やLPA1に対する抗体が創薬に有用であることがわかり、構造解析の計画に組み入れることにした。次年度では、リゾリン脂質受容体に拮抗薬または作動薬活性のある抗体と、標的受容体の構造解析を行い、構造情報をもとにした改変によって抗体のエンジニアリングを行い、リゾリン脂質を標的とした革新的な創薬を目指す。そのために、抗体や受容体の発現精製のための培地や試薬、界面活性剤などの費用を計上する。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2024 2023

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件)

  • [雑誌論文] Structural basis for lysophosphatidylserine recognition by GPR342024

    • 著者名/発表者名
      Izume Tamaki、Kawahara Ryo、Uwamizu Akiharu、Chen Luying、Yaginuma Shun、Omi Jumpei、Kawana Hiroki、Hou Fengjue、Sano Fumiya K.、Tanaka Tatsuki、Kobayashi Kazuhiro、Okamoto Hiroyuki H.、Kise Yoshiaki、Ohwada Tomohiko、Aoki Junken、Shihoya Wataru、Nureki Osamu
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 15 ページ: 1-15

    • DOI

      10.1038/s41467-024-45046-z

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Cryo-EM structure of the endothelin-1-ETB-Gi complex2023

    • 著者名/発表者名
      Sano Fumiya K、Akasaka Hiroaki、Shihoya Wataru、Nureki Osamu
    • 雑誌名

      eLife

      巻: 12 ページ: 1-14

    • DOI

      10.7554/eLife.85821

    • 査読あり

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公開日: 2024-12-25  

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