アストロサイトは高等な生物であるほどに神経細胞に対する脳内の存在比率が高くなり、脳内で重要な役割を担っていることが明らかになりつつある。しかし、神経細胞と異なり電気活動を示さないため、活動性の指標はカルシウム濃度に基づいて行われ、マクロな視点でのアストロサイト活動の評価は困難である。したがって、マクロな評価が必要となるヒト脳病態において、アストロサイトがどのように関与しているかは未知の部分が多い。 本研究の目的は、アストロサイトの脳内における活動の意義を明らかにするために、アストロサイトの活動性を反映するバイオマーカーを確立することである。2023年度にはマウスのアストロサイトのカルシウム濃度をDREADDで操作し、このときの脳内環境の変化を、イメージングバイオマーカー(磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)、ポジトロン断層撮像(PET)、超偏極MRS)、ASLで明らかにすることを試みた。アストロサイトのカルシウムを上昇させたとき、MRSでは脳内の代謝物濃度に明らかな変化は認めなかったが、超偏極1-13Cピルビン酸の投与実験では、重炭酸イオンの生成低下を認めた。FDG-PETでもDREADD群で取り込み低下を認めた。一方、DREADDにて神経細胞のカルシウム上昇を抑制した際、FDG-PETでは取り込みの低下傾向を認めたが、超偏極1-13Cピルビン酸投与での変化を認めなかった。DREADD群ではASLでの変化を認めず、脳内乳酸濃度にも変化を認めなかった。以上の結果より、超偏極1-13Cピルビン酸がアストロサイト活動を反映する指標の一つになる可能性が示唆された。
|