研究課題/領域番号 |
22K19414
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木村 友則 大阪大学, 大学院医学系研究科, 招へい准教授 (00631300)
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研究分担者 |
塚本 悠介 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 医薬基盤研究所 難治性疾患研究開発・支援センター, 特任研究員 (60838944)
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研究期間 (年度) |
2022-06-30 – 2025-03-31
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キーワード | tRNA / アミノ酸 / キラリティ / 代謝 |
研究実績の概要 |
生命現象は、ゲノムDNA情報から産生される多種多様なタンパク質の働きによって維持されている。タンパク質は、ゲノム情報のコピーであるメッセンジャーRNA(mRNA)を鋳型として、トランスファーRNA(転移RNA、tRNA)により運搬されたアミノ酸により、産生(翻訳)される。tRNAはアミノアシル化という反応によりアミノ酸が付加(チャージ)される。アミノ酸には光学異性体が存在するが、最近、ごく少量のD-アミノ酸が生体に存在することが分かってきた。 翻訳因子として重要なtRNAは、安定した翻訳環境を維持するために、チャージを一定レベルで維持していると考えられてきた。しかし近年、栄養ストレスや成長条件により、tRNAのチャージが様々な動態を示し、翻訳を始めとした生命現象に影響を与えるダイナミックな分子であることが明らかとなってきた。tRNAのチャージ率は生物学的に重要なパラメーターである。アミノ酸などの栄養不足の状態に対する適応力が低下した老化現象や、tRNAの様々な異常が報告されている難病等、様々な疾患とも深い関連がある。また、アミノ酸のキラリティがどのようにtRNAを始め細胞内のシグナルにも影響すると考えられてきたが、研究は進んでいなかった。 本研究開発において、我々はtRNAのチャージ率(アミノアシル化率)を網羅的に評価する手法や、ある特定のtRNAのチャージ率を簡便に測定する手法を開発する。そしてこれらの手法を活用し、tRNAチャージ率が老化や難病においてどのように変動し病態に関連するか生物学的意義について検討している。さらに、光学異性体のD-アミノ酸が細胞に及ぼす生理機能がtRNAにどのように影響を与えるかも検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
初年度に開発したtRNAのチャージ率を簡便に測定する方法(Tsukamoto Y, Kimura T. i-tRAP (individual tRNA acylation PCR): A convenient method for selective quantification of tRNA charging. RNA 2022)を利用することで、tRNA(Gln)のチャージ率が細胞内のグルタミン濃度を反映すること、そして、tRNA(Gln)のチャージ率低下を視点としてGCN2キナーゼの活性化、UBCの発現上昇を介して、tRNA(Gln)のチャージ率を維持する機構があることを解明した (Tsukamoto Y, Kimura T: GCN2 kinase-mediated upregulation of ubiquitin C maintains intracellular glutamine level and tRNAGln(CUG) charging under amino acid starvation. FEBS Lett, 2023 10.1002/1873-3468.14628.) tRNAのチャージ率は細胞内の栄養状態を反映し、老化に関連する細胞内シグナルの重要な開始拠点であることが判明した。 また、老化との重要性が判明してきた細胞内代謝リズムをD-アミノ酸の視点から追加検討多。これにより新たに、概日リズムを整えて体調を良くするD-アミノ酸の発見した。生活習慣病治療への期待が持たれる。
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今後の研究の推進方策 |
開発した手法を活用し、疾患モデルにおけるtRNAチャージ率の変化について評価する。また、tRNAの研究を通じて判明して老化との関連が示された細胞内の代謝制御について、光学異性体のD-アミノ酸が及ぼす影響を評価し、その機序を追加検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
tRNAの研究が進み、想定より早い段階で論文を2報報告することができた。今回発見した代謝経路についての検討をさらに追加する準備と計画の立案に時間がかかったため、研究実施を最終年に実施することにした。
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