研究課題
カイコ感染モデルにおいて高病原性を示す細菌の遺伝子変異株が陽イオン性の抗菌物質に耐性を示すことから、細菌の病原性上昇には宿主免疫系の陽イオン性抗菌ペプチドに対する細菌の耐性化が関わると想定される。本年度は、大腸菌遺伝子欠損株ライブラリーを用いて、カチオン性の環状ペプチドであるコリスチンに対して感受性を示す株の探索をおこなった。解析の結果、de novo プリン塩基合成の最終段階である、IMPからアデニロコハク酸の合成を担う酵素 PurAの欠損株がコリスチン感受性株の1つとして得られた。アデニロコハク酸はAMPとなり、ADPへ変換されたあと、ATPの基質となる。purA欠損株においては、細菌内のATP量が野生株に比べ減少していることが明らかとなった。ATP合成はプロトン輸送と共役し、膜電位形成に関わる。蛍光色素DiOC2(3)の標識アッセイにより膜電位を測定したところ、purA欠損株においては野生株に比べ細胞膜が過分極していることが示唆された。さらに、脱共役剤であるCCCPを添加したところ、purA欠損株における過分極は失われ、コリスチンに対する感受性も失われた。purA欠損株は膜電位依存に取り込まれることが知られるアミノグリコシド系抗生物質であるカナマイシンとゲンタマイシンにも感受性を示した。以上の結果は、AMP合成酵素PurAの欠損がATP合成の低下と細胞膜の過分極を導き、大腸菌のコリスチン感受性化を引き起こすことを示唆している。purA欠損株においては、栄養培地中での増殖低下が観察されたため、カイコ感染モデルにおける病原性への影響は検討しなかった。
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