研究実績の概要 |
記憶T細胞は慢性炎症や腫瘍環境では持続的な抗原刺激と何らかの環境因子によって疲弊状態(exhaustion)に陥る。結果的に疲弊化はがんにおける免疫チェックポイント療法の感受性を下げることになる。本研究は、メモリーT細胞の最終分化段階である「疲弊」の分子メカニズムを明らかにするとともに、これを解除ないし分化転換(リプログラミング)する方法を開発するものである。本年度の成果として(1)T細胞の老化、疲弊にNR4aが関与することを示すためにCD8T細胞特異的にNR4a1及びNR4a2を欠損するマウスを作成した。このマウスは強い抗腫瘍効果を示した。T細胞のscRNAseq解析を行なったところ疲弊化T細胞が減少し、TCF1陽性の初期メモリーT細胞が増加していた。マウスへの移入実験によりNR4aを欠損させると疲弊化したT細胞がTCF1陽性の幹細胞様疲弊前駆T細胞へと「若返る」可能性が示された。(2)ヒトT細胞においてもNR4aを欠損させることで疲弊しにくく、より抗腫瘍効果の強いCAR-T細胞を作成することができることがわかった。(3) CD8陽性T細胞においてSOCS3遺伝子に欠損させることでT細胞の分化が亢進しエフェクターT細胞を増やし、抗腫瘍効果を高めることを明らかにした。(4)最も若いメモリーT細胞としてstem cell memory (Tscm)が知られている。試験管内で Tscmを作成する方法としてIL-7, IGF-I, CXCL12, Notch刺激の組み合わせが効率よくTscmを誘導することを見出した。このようにして作成したTscmは特にTCF7などのメモリーマーカー遺伝子発現が高く、逆NR4aを含む疲弊マーカー遺伝子の発現が低下してい た。
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