研究課題
メラノーマは、原発巣からの転移により、最も致死率の高いがんの一つである。細胞内脂肪酸シャペロンの1つであり、メラノーマに高い発現を示す脂肪酸結合タンパク質(FABP7)および種々の脂質代謝分子に着目した解析を実施した。CRISPR/Cas9システムによりFABP7を欠損させたメラノーマ細胞(FABP7KO-B16F10)を樹立した。FABP7KO-B16F10およびコントロール細胞(c-B16F10)をマウス皮下に移植し腫瘍径を経時的に観察したところ、FABP7KO-B16F10はコントロール細胞と比較して、腫瘍のサイズが有意に縮小していた。またFABP7KO-B16F10を静脈投与すると、肺の転移巣がコントロールに比べて少ないことが確認された。質量分析によりFABP7KO-B16F10の細胞内脂質プロファイルを質量分析計を用いて解析すると、細胞内の複数の遊離脂肪酸、特に飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸構成比や含有量に変化があることが判明した。これらの結果は、FABP7が欠損により脂肪酸の輸送が阻害されることでメラノーマの生物学的悪性度に影響を及ぼしていることが明らかとなった。またFABP7KO-B16F10をマウス皮下移植を行い、肺への遠隔転移について調べてみると、コントロールに比べてKO細胞では遠隔転移の割合が明らかに低下していることが明らかになった。現在はKO細胞の浸潤・遊走能を培養細胞レベルで評価し、その分子メカニズムを検討している。以上の結果は、日本解剖学会総会および結果の一部を日本分子生物学会にて発表を行った。上記と並行して高脂肪食摂取が癌の微小環境を構成する免疫系細胞、さらには食事性脂質の摂取によって脂肪滴の脂質構成が変化すると考えられる脂肪細胞に与える影響について解析を進めている。これまでにマウスから脂肪細胞の初代培養系の樹立を鋭意進めているが解析に十分な細胞数を分取するための条件検討に少し時間を要している。
3: やや遅れている
メラノーマ細胞や大腸がん細胞の移植モデルを構築し微小環境を構成する細胞における脂質関連タンパク質の発現解析は順調に進んでいる。一方で高脂肪食を給餌後の担癌マウスモデルについてはモデルの増殖アッセイ等を進めている。上記と並行して高脂肪食摂取が癌の微小環境、特に脂肪細胞に与える影響について解析を進めている。これまでにマウスから脂肪細胞の初代培養を試みているが、いまだ安定した培養系の樹立に至っていない。
脂質の摂取が脂肪細胞の脂質環境に影響することで、種々のガンの生物学的特性に影響を与えるか否かの仮設を検証するために、脂質コントロール食と通常食を給餌したマウスからの脂肪細胞の分離に注力する。これまで得られたFABP7KO-B16F10の解析結果については論文化を進める。
分離細胞を使った遺伝子およびタンパク質の発現解析を予定していたが、細胞の純度および収量が十分得られなかったため、次年度に実施することになったため。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
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