研究課題
いじめや誹謗中傷、あおり運転、また認知症における攻撃行動など、攻撃性による問題は非常に身近で、多くの人々の精神的・身体的な安全が脅かされている。本研究は、このような過剰な攻撃性を抑えるメカニズムを明らかにするために、運動の効果に着目した解析を行い、自発的運動を行うことで、雄マウスの攻撃行動にどのように変化が生ずるかを詳細に解析するとともに、自発的運動がどのような生物学的・神経学的変化を生じさせることで攻撃行動の低下を及ぼすかについてを明らかにすることを試みる。ランニングホイールの付いたケージにマウスを飼育すると、マウスは自発的に輪回し行動を行うようになる。本研究では、雄マウスをランニングホイールの付いたケージで2週間飼育し自由に自発的運動を行わせ、運動前と運動後の攻撃行動を比較した。その結果、運動前と比べて2週間の運動後は攻撃行動が減少した。その後、ホイールが動かないように固定して運動できない状況に置くと、攻撃行動は運動前と同レベルまで増加することが明らかとなった。ホイールの付いていないケージに飼育したコントロール群では、実験期間を通じて攻撃行動の量には変化が認められなかった。このことから、自発的運動を行うことができる状況にすることで、マウスの攻撃性を可塑的に低下させることができることが示された。自発的運動による攻撃行動の低下に関わる脳領域の神経活動の変化を明らかにするために、現在ファイバーフォトメトリーを用いた神経活動記録の実験を開始している。
3: やや遅れている
ランニングホイールで2週間自発的に運動させた動物は、運動前と比べて攻撃行動が減少した。そして、ホイールが動かないように固定すると、攻撃行動は運動前と同レベルまで増加することが明らかとなった。運動条件についての検討をより詳しく行う予定であったがホイールに問題が生じたため、これについては次年度への繰り越しとなった。また、神経科学的手法を用いた神経回路の解析のために、背側縫線核の攻撃行動中のファイバーフォトメトリーによる神経活動記録を開始し、行動中の神経活動の変化が観察されてきている。
1)運動による攻撃行動低減作用の行動学的解析。何日間のランニングホイール(RW)自発的運動で攻撃行動が低下するかの経時的解析や、RWにアクセスできる時間を制限することで、攻撃行動低減作用を生じさせる適切な自発的運動量を明らかにする。2)運動による攻撃行動低減作用の神経回路の解析。自発的運動の攻撃行動低減作用に関わる脳領域を明らかにするために、神経活動応答が変化する脳領域の網羅的探索を行う。同定された脳領域は、AAV感染系を用いオプトジェネティクスとDREADDによる活性操作を行い、攻撃行動への影響を検討する。並行して、運動がセロトニン神経核である背側縫線核(DRN)の活動に及ぼす影響についても神経科学的・分子生物学的解析を行う。3)運動と攻撃行動の関係をつなぐ遺伝的基盤の解析。研究分担者である国立遺伝学研究所小出剛准教授との共同研究により、低活動で攻撃行動が昂進した15番染色体コンソミックマウス系統を用いて、2)で明らかになった脳領域の活性化の変化を調べるとともに、運動低下と攻撃行動に共通した遺伝的基盤が存在するかを調べる。
運動条件についての検討をより詳しく行う予定であったが、ランニングホイールに問題が生じたことから、次年度セットアップを行い実験をおこなうため、これについては繰り越しとなった。
すべて 2023 2022 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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https://researchmap.jp/takahashi_aki