研究実績の概要 |
本研究の目的は、四次元図形の直接知覚(4D知覚)を可能にする新たな可視化方法およびその知覚の習得方法の開発である。四次元構造物(以下n次元をnD等と適宜略)を知覚する人類の試みは短くとも140年の歴史を持ち、4D超立方体(tesseract)の可視化を研究したHinton (1884)まで遡る。その後、時空間としての4Dの理論物理学的な理解は発展したが、直接的な4D知覚は困難であると考えられてきた(Coxeter, 1948)。本研究での4D知覚とは、4D空間上の幾何的構造を数学的・論理的な推論を基に学習すること(Aflalo & Graziano, 2008)や顔等の高自由度物の知覚(Burt & Crewther, 2020)ではなく、3D知覚と同様に秒単位の短時間で空間構造や物体操作を把握する能力を指す(Tyler, 2021)。 具体的に、本研究は理論・実験の両面から4D知覚にアプローチする。 (1)視覚系の入力である網膜像は3D空間のある2D射影で、奥行き情報を失った2D射影から、元の3D構造を推定する不良設定問題を解消すべく逆光学的な推定法が提案されてきた(Marr, 1982)。この枠組みを発展させ、我々が提案する視覚系の理論(日髙&高橋, 2021)は、2D像から3D構造の推定だけではなく、4D空間上の図形の3D射影に対しても疑似逆計算(~4D知覚)の可能性を予測する。本研究はこの理論的な予測に沿って、4D知覚可能な視覚データを模索する。 (2)認知心理学の古典的な研究として、心的な3D構造物の実証に用いられた心的回転課題がある(Shepard, & Metzler, 1971)。3D心的回転課題では、被験者は2つの画像の対を見比べ、それら2つが回転して正確に一致するか否かを判定する。もし被験者が心的に一方の物体を3D回転させ、他方に一致するならば、その一致に必要な最小の回転角に比例した回答時間が予想される。実際Shepardら(1971)は回転角と回答時間の明確な比例関係が示した。この枠組みを4Dに拡張し、4D知覚の検証を行う。
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