今年度は、海洋中の微生物活動の実大気エアロゾルの付着性への影響を調査するために海洋中微生物学が専門の共同研究者のサンプリング航海に参加し、太平洋上の海洋起源エアロゾル(SSA)および有機物が濃縮した海水(海表面マイクロ層; SML)をサンプリングした。加えて、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた個別粒子の付着力測定法の改善を目的に基礎的な研究を行った。この成果は国内の学会でポスター発表にて報告した。また、AFMを用いた個別粒子の粘弾性評価を試み、無機塩と有機物の標準粒子に対して試験的に測定を行った。先行研究と整合的な結果を算出し、個別粒子の粘弾性評価達成のための基礎的な成果を得た。 本研究期間全体では、AFMを用いた個別粒子レベルでの大気エアロゾルの付着性の評価を目的とした研究を主に進めてきた。特に有機物を豊富に含んだSSAを対象とした研究を精力的に行った。実環境中に存在する有機物リッチなSSAを模擬する試料として、冬季能登半島の沿岸に発生する海洋中の有機物由来の泡状物質(波の花)に着目した。波の花から発生させた粒子に対してAFMによる付着力測定を実施し、人工海塩と単糖類(グルコースとフコース)の標準粒子、さらには人工海塩とグルコースを異なる質量比で混合させた粒子の結果と比較した。その結果、有機物を含む粒子は無機塩粒子よりも高い付着性を持つことが分かった。さらに有機物の海塩粒子表面へのコーティング量の増加に伴って粒子の付着性も増加することが分かった。また、同様に測定した大気中試料の中からは本研究において高い付着性を示した粒子に匹敵するほどの付着性を持つ粒子の存在も確認された。これらの結果は学術誌Atmospheric Environmentに掲載され、いくつかの学会にて発表賞を受賞した。
|