研究課題
体サイズは陸上動物のロコモーションを制約する最も重要な形質の一つである.直立型の哺乳類では,体重の1/3乗で増える筋骨格系のストレスを軽減するため,体サイズ依存で姿勢が異なることが知られる.しかし,這歩き型の爬虫類における体サイズ依存の姿勢変化は知られていない.本研究では,最大体長6 mに達するワニ類に着目し,這歩き動物における体サイズと姿勢の関係を解明することを目的とした.令和2年度(2020年4月~2021年3月)は前年度に引続き,米国サウスカロライナ州クレムソン大学にてアメリカン・アリゲーターの歩行実験を行った.2020年春~秋にかけて,新型コロナウィルスの流行により大学がロックダウンされ,また秋に実験開始以降も床反力計が故障するなど,当初の予定通りには実験を進めることができなかった.しかし,2020年冬までに,手術を伴わないデータ(四肢のキネマティクス・キネティクス)を取得し終えた.実験の結果,アリゲーターの幼体~亜成体では,体サイズ増加に伴い,前肢・後肢の外転角が小さく,規準化された肩関節・股関節の外転モーメントが小さくなっていた.また,成長に従って体の重心位置が前後に移動する影響で,前肢・後肢の床反力が変化していた.アリゲーターにみられる体サイズ依存の姿勢変化は,哺乳類にみられるトレンドと類似しており興味深い.これらの結果をまとめ,今年度中に国際誌への論文投稿を予定している.
3: やや遅れている
採用者は前年度に引続き,2020年4月~2021年3月まで,米国サウスカロライナ州のクレムソン大学を拠点としてアメリカン・アリゲーターの歩行様式の研究を行った.2020年春~秋にかけて大学がロックダウンされたため,その間実験を行うことができなかったが,在宅環境でできる限りの研究を行った.現在は大学での研究を再開し,アリゲーター幼体の四肢骨ひずみ測定を行っている.今年度はクレムソン大学にて亜成体の四肢骨ひずみ測定,フロリダ州セントオーガスティン・アリゲーターファームにて成体の四肢キネマティクス測定を予定している.2021年1月には米国統合比較生物学会にてアリゲーターの四肢キネマティクス・キネティクスの発表を,2021年2月には日本古生物学会にてワニの体サイズ測定の発表を行った.
令和3年度(2021年4月~2022年3月)は前年度に引続き,米国クレムソン大学にてアメリカン・アリゲーターの歩行実験を行う.2021年春~秋にかけて,準大型アリゲーターを用いて上腕骨・大腿骨のIn vivo骨ひずみ測定を行う.また,2021年夏頃までにルイジアナ州のロックフェラーレフュージからアリゲーターの中型個体を得る見込みであり,これらの個体を用いて荷重ベルト装着による重心位置の変化と姿勢の関係について研究する.骨ひずみ測定済みの個体は,ジョージア大学医学部において全身CTスキャンを行い,画像処理ソフトを用いて体の各セグメントの重心を計算する.全身スキャン後は,四肢の染色とdiceCTにより筋のセグメンテーションを行う.各筋のモーメントアームを求め,床反力と併せて骨ひずみをモデル計算する.また,2021年夏にセントオーガスティン・アリゲーターファームにおいて,フロリダ大学の研究者と共同で,大型アリゲーター(> 2m)のビデオ撮影,床反力測定を行う.体長 < 2m個体のデータと併せて,体サイズとロコモーションの関係を議論する.今年度は,クレムソン大学での研究成果の論文化に注力する.順調に海外渡航が解禁されれば,11月の国際ワニ学会@メキシコ・キンタナ州にて,アリゲーターの歩行実験の成果を発表予定である.
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
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