研究課題/領域番号 |
21J22276
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
廣瀬 優希 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ピロール-イミダゾールポリアミド / 環状ピロール-イミダゾールポリアミド / 二本鎖DNA結合性分子 / 遺伝子発現制御 / 細胞透過性 / トリプレットリピート |
研究実績の概要 |
ピロール-イミダゾールポリアミド(PIP)はDNAに塩基配列特異的に結合する分子である。その高い特異性や結合能を活かして、様々な応用を目指した研究が行われてきた。本研究課題では、特に環状構造を持つPIP(cPIP)の機能評価・改善を行うことを目標としている。cPIPは従来のヘアピン型PIP(hPIP)に比べて高い結合能・特異性を示すことが知られており、様々な疾患に対する薬剤としての応用が期待できる。 本年度は以下の2つの研究を行った。 (A)cPIPの遺伝子発現抑制能および細胞透過性の評価 以前の研究で、アンドロゲン受容体の結合配列を標的としたcPIPの遺伝子発現抑制能がhPIPより低いことがわかっていた。そこで、蛍光分子を導入したPIPの細胞透過性を調べたところ、cPIPの低い遺伝子発現抑制能が低い細胞透過性により生じていることやPIPの細かな構造の違いによって細胞透過性・遺伝子発現抑制能が大きく異なることが示唆された。 (B)CAG/CTG反復配列を標的としたcPIPの開発・評価 以前の研究で、様々な疾患の原因となるCAG/CTG反復配列に高い結合能・特異性を持つcPIPを開発した。そのcPIPとDNAとの結合についてSPR測定を行ったところ、cPIPはhPIPよりも結合・解離ともに遅く、両者は異なる結合特性を示すことがわかった。次にこのcPIPがCAG反復配列を持つ遺伝子の発現を抑制できるか調べた。前立腺がん細胞を用いた評価は再現性に問題があり中断したが、ハンチントン病細胞を用いてRT-PCRを行ったところ、cPIPはハンチントン病の原因となる異常伸長したCAG反復配列を持つHTT mRNAの発現を選択的に、hPIPよりも強く抑制することが分かった。さらに、熊本大学の塩田倫史准教授との共同研究にてこのcPIPが他の疾患モデル細胞、マウスにおいても良好な機能を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(A)の研究においては、共焦点レーザー顕微鏡やフローサイトメトリーを用いた蛍光分子を導入したPIPの細胞透過性評価により、転写因子の結合配列を標的としたcPIPが細胞透過性の面で問題があることが分かった。このことは、PIPの構造と細胞透過性との関連をより詳細に調べcPIPの細胞透過性を向上することでcPIPのさらなる機能改善が可能であることを示唆しており、今後の研究の方針を決定するうえで重要な結果であるといえる。 (B)の研究において、SPR測定によりcPIPとhPIPが異なる結合特性を示すことを明らかにしたことは、cPIPとhPIPの機能の違いを理解するうえで重要である。さらに、このcPIPが疾患細胞やモデルマウスで良好な結果を示したことでcPIPの薬剤としての応用に向けた研究が大きく前進したといえる。 以上の理由により本研究課題は当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
(A)の研究においては、NMRや分子動力学シミュレーションを用いたPIPの溶液中での立体構造解析によりPIPの構造と細胞透過性との関連を調べる。必要に応じてCD測定による構造解析やHPLCによるLogPの測定なども行い、PIPの細胞透過性に影響を与える構造的要因について詳細に調べる。得られた結果からPIPの細胞透過性を向上させるような構造最適化を行い、細胞内機能の向上を目指す。 また、(B)の研究においてこれまでに良好な結果が得られたCAG/CTG標的cPIPに修飾を加え、より高い機能を示すcPIPの開発を目指す。まずは分子モデリングを用いた構造最適化や非細胞系の実験により有望なcPIPを見出し、その後疾患細胞を用いた実験により遺伝子発現抑制能が向上するかを確かめる。研究(A)の進行状況によっては、cPIPの細胞透過性が向上するような構造最適化を行い、機能向上を試みる。
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