研究実績の概要 |
ハイエントロピー合金(HEA)は、5種類以上の元素をほぼ当原子組成比で含み、かつ単相の固溶体を形成する材料とされている。HEAはその高い配置のエントロピーに起因する高い比強度や高温安定性・腐食耐性などの従来合金に見られない特異な物性を発現することから触媒科学を含む多くの分野で注目されている。加えて、HEAはその組成の多様性から目的の反応に合わせて精密な触媒特性の制御が可能という利点もある。しかし、HEAナノ粒子触媒という領域は黎明期であり、主として「合成法の探索」が行われている段階であり、HEA触媒の反応活性サイトの精密な制御を行っている研究は少ない。 本研究では特異活性サイトが多数導入された高活性・高耐久なHEAナノ粒子触媒の開発を目的としている。本年度においては形態制御した酸化セリウム(CeO2)担体を利用し、Co, Ni, Cu, Zn, PdからなるHEA触媒の合成を試みた。触媒担体として還元性の高いCeO2ロッドを用いたところ、担持した前駆体が急速に還元し、HEAが形成していることが示唆された。加えて各種キャラクタリゼーションからこのHEAは13核からなるサブナノクラスターであることが示唆された。 触媒特性をH2を利用したNO還元反応を利用して評価したところ、CoNiCuZnPd HEAサブナノクラスター触媒では単金属触媒と比較し、低温でNOを還元できていることが明らかとなった。 in situ XAFSを利用したNO-H2による酸化還元応答性測定において、HEAサブナノクラスターでは卑金属元素の酸化還元に由来する構造変化が起きていることが示唆され、Pd元素の価数変化が抑制されていることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、触媒の微細構造制御により特異活性サイトを多数導入したハイエントロピー合金(HEA)ナノ粒子触媒の開発を行っている。当該年度では、形態制御によって(110)面を多量に露出したロッド状酸化セリウム(CeO2)を担体としCo, Ni, Cu, Zn, PdからなるHEAサブナノクラスターを合成した。 各種金属イオン前駆体を含浸法を用いてCeO2上に担持した後、水素還元することによってCoNiCuZnPd HEA担持CeO2ロッドが得られた。XPS測定やHD交換反応よりCeO2ロッドは還元性が高く、Ce3+と酸素欠陥が多量に導入されているため、水素還元中に水素スピルオーバーが急速に生じることでHEAが形成したことがわかった。EDXマッピング、in situ XAFS, FT-EXAFSカーブフィッティングなどからHEAの構造が同定され、HEAは13核からなるサブナノクラスターであることが示唆された。 CoNiCuZnPd触媒の特性をNO還元反応にて調査したところ、単金属Pd触媒と比較して大幅に向上していることが明らかとなった。In situ FT-IR, DFT計算により、HEA表面では反応基質であるNOの吸着が促進されていることが示され、これが活性向上要因であることが示唆された。 また、in situ XAFSによる酸化還元応答構造変化を調査したところ、HEAサブナノクラスターでは単金属Pdには見られない特異な構造変化をすることがわかった。XANESフィッティングによる価数の同定によりこの構造変化は卑金属の犠牲的な酸化によって誘起されていることが示唆された。 当該年度においては、国内外にて7件の発表を行い、その内3件で発表賞を受賞した。以上の結果から、当該研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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