研究課題
昨年度は高速液体クロマトグラフ(HPLC)と元素分析-同位体比質量分析(EA/IRMS)を活用することで、核酸塩基の窒素安定同位体比(δ15N)を測定する手法を新たに開発した。EA/IRMSでは、δ15Nとともに炭素安定同位体比(δ13C)も同時に測定することが可能であるが、分析試料の調製中に何らかの炭素源が混在しており,核酸塩基の正確なδ13Cを測定することができていなかった。この問題は,核酸塩基を溶解させるために必要な水酸化ナトリウム水溶液中に大気中の二酸化炭素が溶け込み,炭酸塩として炭素源が加わることが原因であると考えた。そこで,その炭酸塩を除去するために同位体分析直前に塩酸で試料を処理したところ,混在していた炭素源の除去が確認され,EA/IRMSによる核酸塩基のδ13Cとδ15Nの高精度な同時分析法を開発させることができた。昨年度にδ15Nを測定した7種の核酸塩基標準試料(ウラシル、シトシン、チミン、キサンチン、ヒポキサンチン、グアニン、アデニン)と堆積物中からの核酸塩基のδ13Cを測定し,HPLCによって単離された天然試料由来の核酸塩基に対しても本分析法が適用可能であることを実証した。上記の研究成果に加え,隕石中の核酸塩基のδ13C・δ15N分析に向けた抽出方法の最適化も実施した。従来用いられてきた熱水による隕石有機物の抽出後にさらに塩酸による抽出を行うことで,最初の熱水抽出で回収できていない核酸塩基の分布を調査した。その結果,ピリミジン塩基は熱水抽出液中に豊富に存在する一方で,プリン塩基の大部分は続く塩酸抽出によって隕石試料から回収されることを明らかにした。したがって,最適化した隕石試料の抽出法,HPLCによる単離,EA/IRMSによるδ13C・δ15N分析を組み合わせることで,炭素質隕石中の核酸塩基の同位体組成を測定する手法を確立することができた。
2: おおむね順調に進展している
昨年度に生じた課題を解決し,核酸塩基のδ13C・δ15N分析法を初めて確立することができた点は大きく評価される。昨年度の研究成果であるδ15Nのみの分析法を報告する論文原稿を加筆修正中であり,来年度の上半期中には投稿可能である。さらに,炭素質隕石中の核酸塩基分布をより詳細に明らかにし,続く隕石核酸塩基の同位体分析を行う上で非常に重要な知見を得ることができた。この成果についても論文原稿の準備が進んでおり,来年度の上半期中には投稿可能である。上記二報の投稿後には,本研究課題の主題である隕石核酸塩基の同位体分析に取り組む予定であるため,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断される。
本年度に開発した核酸塩基のδ13C・δ15N測定法と隕石中の核酸塩基の分布について国際誌にそれぞれ報告を行う。現在,生物試料中の核酸塩基の同位体分析も実施しており,本研究課題で開発された分析手法が地球化学の幅広い分野の試料に適用可能であることを実証中である。そして,本研究課題で得られた成果の集大成として,隕石試料中からの核酸塩基の単離・同位体分析を実施し,隕石核酸塩基の多次元同位体比を世界で初めて高精度に測定することで,当該研究分野に革新的な知見をもたらすことを目指す。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件)
Nature Communications
巻: 14 ページ: -
10.1038/s41467-023-36904-3
Science
巻: 379 ページ: -
10.1126/science.abn9033
ACS Earth and Space Chemistry
巻: 6 ページ: 1311~1320
10.1021/acsearthspacechem.2c00008
巻: 13 ページ: -
10.1038/s41467-022-29612-x
Viva Origino
巻: 50 ページ: 5~
10.50968/vivaorigino.50_5