初年度から三年度の研究活動による研究代表者の主要な研究成果は以下の3つである。 ①天然試料中に含まれる核酸塩基の炭素・窒素安定同位体比分析法の開発:本研究課題において、研究代表者は多次元オフライン高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いて7種の核酸塩基を単離し、微量分析用に改良された元素分析-同位体比質量分析計でそれぞれの核酸塩基の炭素・窒素安定同位体比を測定する独自の同位体分析法を確立した。この分析法は植物試料および海洋表層堆積物試料に適用され、これまで報告されてこなかった天然試料中の核酸塩基の同位体組成の測定に成功した。 ②炭素質隕石中からの豊富な核酸塩基の発見:研究代表者は従来の隕石核酸塩基の抽出・精製法を改良し、先行研究の報告値よりも約10倍豊富な核酸塩基を検出することに成功した。この発見により、核酸塩基の同位体分析に必要な試料量を約90%削減することができると見積もられる。さらに、生命が核酸として使用しない分子構造を含む様々なプリン塩基を同定し、シアン化水素の重合反応による隕石中プリン塩基の生成モデルを強く支持する成果を得た。 ③小惑星リュウグウ試料からの核酸塩基の検出:小惑星リュウグウ試料の初期分析に参加した研究代表者は、核酸塩基の一つであるウラシルの検出に大きく貢献した。しかし、初期分析において核酸塩基の調査に用いることができた試料量は限られていたため、その他の核酸塩基の有無については不明であった。そのため、第3回リュウグウ試料研究公募において核酸塩基分布の再分析を目的とした研究課題を応募し、上位20%以内の評価を受けて採択された。分配された約20mgのリュウグウ試料を用いて、②の成果を踏まえた抽出・精製・分析法を適用することで、DNA・RNAとして生命が使用する5種全ての核酸塩基を検出することに成功した。
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