研究課題/領域番号 |
23226019
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
石田 武和 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00159732)
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研究分担者 |
藤巻 朗 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20183931)
日高 睦夫 独立行政法人産業技術総合研究所, ナノエレクトロクス研究部門, 上級研究員 (20500672)
三木 茂人 独立行政法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所ナノICT研究室, 主任研究員 (30398424)
町田 昌彦 独立行政法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主席 (60360434)
四谷 任 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 客員教授 (70393296)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 中性子検出 / 超伝導材料・素子 / 原子力エネルギー / マイクロ・ナノデバイス / 中性子イメージング / 単一磁束量子回路 / モノリシックチップ / 位相すべり |
研究実績の概要 |
大阪府大グループは、電流バイアス運動インダクタンス検出器CB-KIDを製作し、パルスレーザー照射試験に成功し、J-PARCにて中性子の照射実験にも成功した。中性子信号の伝搬速度が光速の22%であること、X方向とY方向の積層素子で核反応によるHe4イオンとLi7イオンの検出に成功した。また、超高真空MBE装置で基板加熱をしないで3インチ基板にB10膜を成膜した。 名古屋大では、直列接続CB-KID多素子を単一の電流源で駆動し、個々のCB-KIDを独立した検出器として機能させる接続方法と単一磁束量子読出回路の設計を行った。隣接するCB-KIDに影響を与えないよう低域通過フィルタを検出器間に配置し、磁気結合を介して読出回路に信号が伝わることを光照射によって実証した。 産総研グループは、B10を間に挟んだCB-KID検出器とSFQ信号処理回路をモノリシック化したデバイスの作製プロセス開発を行った。22mm角チップ上にXY両方向のCB-KIDとX方向CB-KIDとSFQ回路を融合し、設計値通りのパラメータを有するジョセフソン接合を用いて作製できることを確認した。一方、B10膜上のSiO2膜の剥がれなど解決すべきいくつかの問題点が明らかにした。 原子力機構理論グループは、運動インダクタンス検出器に対するシミュレーション法開発の一環として、運動インダクタンスのバイアス電流依存性を精査し、高温領域での熱ゆらぎ補正を予測した。加えて、新奇検出器開発の一環として、トポロジカル超伝導体で強いスピン-軌道結合由来の応答を見出した。 情報通信研究機構グループは、MgB2デバイスのために薄膜化しても超伝導性が損なわれないような高品質な膜の成膜条件を探った。スパッタ装置の修理を完了し、高品質なMgB2膜の作製条件について基板温度やMgとBの成膜レートの再最適化とデバイスプロセスの検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画には、なかったCB-KIDの革新的なアイデアを提案して、その動作をパルスレーザー照射で実証した。さらには、実際に中性子を照射して、明瞭な信号を検出した。これらは、当初の計画を超える大きな成果である。1000個のリニアアレイ検出器をX方向、Y方向に配置し、百万画素イメージング装置を構築するための最大の障害が、各検出器を駆動するために必要な電源-検出器間のケーブル数であり、各検出器の出力を読み出すために必要なケーブル数であった。本研究では、検出器の直列接続と磁気結合を介した読出し回路、さらにはエンコーダによって、100万画素であっても、20本程度のケーブル数でイメージデータを取得する方法を提案し、動作原理を実証できた。500検出器まで実証しており世界級の大きな成果である。当初、検出器素子としては、ハイブリッド素子を考えていたが、22mm角チップ上にCB-KIDとSFQ信号処理回路をモノリシック化する提案を行い、そのためのプロセスの開発を行い、B10成膜等のCB-KID関連プロセスでもジョセフソン接合が悪影響を受けないことが確認できた。また、B10の上下にCB-KIDを作製することにも成功した。これらの結果から、目標とするCB-KID/SFQモノリシックデバイスを平成27年度に作製できる見通しがたった。 本研究課題の中心的理論課題である検出器の分解能向上に寄与するため、運動インダクタンスの熱応答についての理論を構築するという目標に対し、高温領域での理論研究を着実に進めた。その他、低温領域での問題を見出すなど、着実に進展している。 相補的に開発を進めているMgB2薄膜であるが、スパッタ装置の修理が完了し成膜最適化ができた。一方で3インチ以上のSi基板が要求されているが、MgB2成膜のためのスパッタ装置が3インチ基板サイズに対応できず、膜の均質性等に問題があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
中性子信号の取り出しは、現在は、アナログ信号に限られているが、デジタル信号の取り出しを目指す。 現在の読み出し回路は1次元での実験にとどまっていることから、これを2次元化し最終目標である百万画素を目指す。その際、最大の課題は、3万接合に達すると想定される読出し回路の大規模化である。この世界最大規模の回路パラメータのばらつきにより、動作マージンの大幅な低下が危惧される。この問題の解消に向け、回路に用いる論理ゲートをマージンの大きいものだけに絞るなどの工夫を加える。平成26年度の研究で明らかとなった作製プロセス上の問題点であるB10成膜時のリフトオフレジストの剥がれの原因を明らかにし、その対策を行う。また、B10膜上のSiO2膜剥がれの原因を明らかにするために、B10膜の表面処理方法とSiO2膜の成膜方法に関する実験を行なう。これらの問題を解決することにより、目標とするCB-KID/SFQモノリシックデバイスプロセスを完成し、中性子検出実験に使用するデバイスを作製する。 運動インダクタンス検出器の各種動作条件(バイアス電流、環境温度、周波数帯)における特性を記述する理論を開発する。特に、低温領域の特性解明に集中する。また、素子の次元性(1次元、準2次元)も考慮にいれる。また、トポロジカル超伝導体の物性予測を活かした検出器提案を行うため、各種輸送係数を評価する枠組み構築を研究する。 MgB2膜質の均一性と3インチ基板に対応するため、電子ビーム成膜装置による成膜を準備中である。3インチ基板用のホルダーおよび加熱用のカーボンヒーターの導入は終了している。現在B成膜のためのハースの検討(Graphite)を行っている。今後電子ビーム成膜装置によるMgB2膜の作製条件の最適化および積層デバイスへの応用化に向けて、B10成膜時の輻射を抑えるための低温成膜の検討を行う。
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