研究課題/領域番号 |
23244002
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
松本 眞 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (70231602)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 数論的基本群 / モジュライ / 数論幾何 / 国際研究者交流(アメリカ) / 国際情報交換(オーストラリア) |
研究実績の概要 |
研究代表者は、東京大学大堀龍一氏との共同研究で、準モンテカルロ積分に有効な低WAFOM点集合を探索し、多くの滑らかな被積分関数で、従来にない高速な収束を見せることを明らかにした(論文投稿中)。点集合の構成には、Niederreiter-Xing sequenceと言われる有限体上種数に比して有理点が多い代数曲線から構成した点集合(古典的にGoppa符号と呼ばれる代数幾何符号をより精密化したもの)に対し、原瀬によるOwen linear-scrambleを用いてWAFOM値を小さくする技術、並びに松本ー大堀ー芳木によるWAFOM値の指数関数による近似を用いる。さらに、このように構成された低WAFOM点集合列を巧みに用いることで、多次元均等分布の累積関数の数値近似が高速で求められるアイデアをつかみ実験中である。研究にはオーストラリアJosef Dick准教授との討論が重要な役割を果たしている。 また、研究代表者は、米国Duke大学Richard Hain教授を本科研費にて招聘し、一点抜き楕円曲線の基本群から得られるモチーフについての共同研究を進め、論文を執筆中である。 連携研究者玉川氏は、フランスEcole PolytechniqueのAnna Cadoret准教授との共同研究で、ガロア表現の族の像のある種の連続性についてしめした。成果はJournal of Algebraに発表されている。連携研究者星氏は、体の和の構造をガロア群から再構築する研究(Publications RIMSに掲載)、曲線の属に関するGrothendieck予想(東大紀要に掲載)を行った。仙台で整数論集会、京都でIU幾何に関する集会を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
数論・幾何を用いたアルゴリズムに置いては、実用にまで達する大きな進展があった。従来、代数曲線符号(Goppa符号)と呼ばれたRiemann-Roch定理に基づく符号は、高性能だが復号化の計算量が大きすぎて実用がなかった。Niederreiter-Xingはこれを精密化(関数体の元の有理点上でのべき級数展開での係数を用いる)することにより、準モンテカルロ積分を高速化するという別方向での実用化を90年代に行ったが、既存の方法と大きな差はなくあまり普及しるとは言えない。本研究課題では、(1)WAFOMという研究代表者らが2011年ごろ導入した点集合の新指標を用いる(2)Owen linear scrambleにより、Niederreiter-Xing点集合をWAFOMの観点から最適化する原瀬の手法、を用いることにより、準モンテカルロ積分の収束の速さを格段にあげることに成功した。特に、統計で普遍的に用いられる多次元正規分布の密度う関数の積分に用いた際に高速に近似する方法を編み出しており、実用・普及に期待ができる。 数論的基本群とモチーフの研究においては、研究代表者はRichard Hainとの共同研究を進め、論文執筆中である。楕円曲線引く一点の普遍族から構成されるpro-unipotentなモチーフは、(1)幾何的ファミリーから構成されたものにはMixed Tate Motifから来ないものがたくさん入っている(たとえばlevel 0のモジュラー形式から来るもの)(2)数論的基本群まで考えて構成したものはMixed Tate Motifとより近い。これらは退化を通して記述でき、楕円曲線と射影直線引く3点の関係をより明らかにしている。
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今後の研究の推進方策 |
数論・幾何を用いたアルゴリズムについては、現在の実験を広範化して適用範囲をつかむとともに、Walsh展開を用いて理論的な適用範囲をもつかんでいく。また、そのまま実用可能な高次元積分ソフトウェアを構成するところまで持っていきたい。 そのもともとのもととなっているのは有限体上の代数曲線符号である。さまざまな理論的研究があるが、準モンテカルロ積分とWAFOMの観点から、既存の理論を調べていけば(符号として用いるのではなく、超一様点集合として用いるわけだからまだ調べられていないので)新たな知見があると期待される。 数論的基本群の方面では、最近、Brownによるさまざまなモチーフの構成が行われた。また、安田正大により、多重ゼータ値に関する金子-Zagier予想に対する大きな進展もある。これらとの関係も踏まえて、楕円曲線の普遍族から構成されるモチーフの理論についてのHain氏との共著論文の執筆を進める。
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