研究課題/領域番号 |
23310179
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研究機関 | 京都学園大学 |
研究代表者 |
鈴木 玲治 京都学園大学, バイオ環境学部, 准教授 (60378825)
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研究分担者 |
黒田 末寿 滋賀県立大学, その他部局等, 名誉教授 (80153419)
野間 直彦 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (80305557)
島上 宗子 愛媛大学, 教育地域科学部, 准教授 (90447988)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 環境学 / 土壌学 / 民俗学 / 生態学 / 在来知 / 地域活性化 |
研究実績の概要 |
本年度は、滋賀県長浜市余呉町の共有林における雑木林及び4年目の休閑地の2箇所を伐開・火入れし、焼畑による山カブ(余呉在来の赤カブ)の栽培を行った。カブは焼畑でなければ本来の色、形、風味、食感などがでないとして、焼畑での栽培を続ける農家が今なお残っているが、焼畑と常畑のカブの品質の差異を定量的に比較した研究例は少ない。本研究で、余呉町の焼畑で栽培した山カブと、同じ種子を用いて亀岡市の常畑で栽培した山カブの肉色を比較したところ、前者は後者に比べて赤味が強く鮮やかであることが確認された。カブの赤色のもとになるアントシアニンの生合成には昼夜の温度差が大きいことが必要で、高温下では抑制されることが知られているため、この結果は両地域の気温差を反映したものと思われる。一般に、焼畑は常畑よりも標高の高い山地で行われるため、同一地域内で比較すれば、焼畑の方が日中の気温は低く明け方の冷え込みも厳しくなることが、焼畑のカブの赤味が強くなる一因ではないかと思われる。 また、温海地方の焼畑では「灰が熱いうちにカブの種を播け」といわれ、余呉町の焼畑でも火入れ直後に播種を行う。本研究で山カブの発芽率と温度の関係を調べた結果、80℃で5~10分程度加熱した場合に発芽率が最も高くなり、火入れ直後の播種がカブの発芽を促進している可能性が示唆された。 また、焼畑作物の害虫被害に関するこれまでの調査結果から、エンマコオロギの大発生の年と火入れ・播種の遅れが重なると、カブに甚大な被害が出ることが分かった。火入れが8月下旬以降にずれ込むと、9月上旬に7齢から成虫へと生長する食欲旺盛なエンマコオロギに発芽直後のカブの子葉のほとんどが食べられてしまうためである。伝統的な余呉町の焼畑では、遅くともお盆までには火入れを行ったそうであり、このことがコオロギの食害リスクを低減する一因となっていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した計画に沿って、順調な調査研究活動を展開中である。また、火入れや収穫などの焼畑体験会には、大学関係者やNPO関係者、周辺地域の方々など多くの人々が参加し、余呉町の人々とも良好な関係を構築できている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、放置された里山を焼畑に切り開くことで森林再生を促し、山地での食糧生産を中山間地域の森づくりにつなげていくことを目指している。短期的には火入れの効果を活かした石油資源への依存度の低い持続的な食料生産、長期的には荒廃する中山間地域の森づくりと地域活性化に果たしうる焼畑の可能性を実証的に示し、地域の目指すべき森づくりの基本計画を構築する。平成27年度は、これまでの研究を継続すると共に、伐採・火入れ直後の草地から山林への移行期の休閑地における有用樹の栽培を試み、これらを組み合わせたアグロフォレストリーによる複合的生業モデルの構築の可能性を検討する。 また、研究代表者等がこれまでに蓄積してきた焼畑研究の知識・経験や人的ネットワークを活かしながら、東南アジアと日本の焼畑を比較し、各々の地域に受け継がれてきた在来知の背景となる生態環境や社会・文化的環境の共通点や差異を検討する。 これらの結果から、焼畑に受け継がれてきた様々な技術や知恵を、現代の日本の中山間地域の実情に応じた形で組み入れたモデルの構築を行う予定である。
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