研究課題/領域番号 |
23310189
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
村本 邦子 立命館大学, 応用人間科学研究科, 教授 (70343663)
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研究分担者 |
金丸 裕一 立命館大学, 経済学部, 教授 (80278473)
池内 靖子 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (80121606)
村川 治彦 関西大学, 人間健康学部, 准教授 (20527105)
小田 博志 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (30333579)
吉 げん洪 広島市立大学, 国際学部, 准教授 (60288694)
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キーワード | 平和教育 / 東アジア / 歴史 / トラウマ / 世代間連鎖 |
研究概要 |
本研究は、戦争による暴力被害・加害の歴史的トラウマを乗り越え、次世代が新たな関係を築くための平和教育プログラムを開発することを目的とした学際的研究であり、米国で開発され対立する民族の和解修復に効果をあげているHWH(Healing the Wounds of History)プログラムを日中で実践し、結果を質的研究法によって検証することで、戦後世代向けの新たな歴史・平和教育としての東アジア型HWHプログラムを開発しようとするものである。 初年度の研究成果の中心は、2011年10月に南京師範大学において行った国際会議である。事前準備として、研究代表者である村本邦子らが8月に中国の蘇州大学で行われた第三回国際表現性心理学会において、これまでの成果報告を行い、専門家によるフィードバックを受けて、プログラムを再検討した。そのうえで、10月、南京師範大学において4日間の国際会議を開催し、HWHプログラムを実践した。この国際会議では、研究目的で示した重点ポイントの1)臨床心理学の知見を踏まえ、歴史・平和教育において個人が感情を安心して表現できる状況を作る際の必要条件の整理 2)米国において対立する民族の和解修復を目的として開発されたHWHプログラムを欧米とは異なる文化的背景をもった日本と中国の和解修復に応用する際の文化的課題の整理、のための基礎データの収集に努めた。その成果は、2012年2月に立命館大学人間科学研究所より『共同対人援助モデル研究3:歴史のトラウマの世代間連鎖と和解修復の試み:国際セミナー「南京を想い起こす2011」の記録』として出版した。この報告書には10月の国際会議で当該研究に関わった研究者とセミナーの日中の参加者の成果レポートが日本語、中国語、英語(研究者のレポートのみ)で掲載されており、次年度以降の分析のために当該研究に携わる研究者で共有できる基礎データとして、また他の関連分野の研究者にも開かれた形で提供することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的達成のために初年度の活動として最も重要であった10月の国際会議を開催できたこと、またその詳細な記録を日中英の3カ国語の出版物として提供できたことから、現在のところ、当初の研究計画どおりに進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画では、平成24年度はまず重点ポイントの「3)このプログラムと戦争被害者・加害者のトラウマ体験の癒しとの関係の理論基盤の構築」を目的として、村本邦子(研究代表者)と村川治彦(研究分担者)が再度南京に赴き昨年度の国際会議に参加した関係者へのフォローアップインタビューを行うことを予定していた。しかし、昨年の南京での国際会議の内容に関する一次資料が整理できたことから、まず年度初めは、「1)臨床心理学的観点から安全な空間提示のための必要条件の整理」「2)異なる文化的背景で和解修復プログラムを行うための文化的課題の整理」に重点を置くことにする。具体的には、5月に南京師範大学から張連紅、CIISからArmand Volkasを京都に招き、10月に行った国際会議の内容についての国際会議を行い、関連する分野の研究者や日本の平和教育関係者からのフィードバックを集める。また、中国とは異なる社会的・文化的条件の日本において東アジア型HWHプログラムを実施することにより、重点項目(2)の文化的課題に関してのさらなるデータ集積を行っていく。そのうえで、年度末に向けて国内での研究会を重ね、これらのデータを踏まえた東アジア型HWHプログラム評価を行っていく。また、年度後半には、研究代表者と研究分担者が南京に赴き、昨年度の国際会議に参加した関係者へのフォローアップインタビューを行う。 この研究の大きな目的は、米国で開発されたHWH(Healing the Wounds of History)プログラムを日中で実践し、その結果を質的研究法によって検証することで、戦後世代向けの新たな歴史・平和教育としての東アジア型HWHプログラムを開発することである。検証のための質的研究の方法について、当初はエスノグラフィーの手法を用いることを計画していたが、10月の会議を通してエスノグラフィー的手法だけでは効率性に課題がある可能性が見えてきた。そこで、今年度以降プログラムの検証プロセスにおいては、プログラム参加者の感想を一次資料としてナラティブ分析の手法で解析していくことも検討していく必要がある。
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