研究概要 |
本研究は,地形変化プロセス研究で活躍する地表岩石中の宇宙線生成核種を利用した地形変化年代測定法に,新手法を提案・確立することを目的とする。具体的には次の2テーマがあり,それぞれについて当該年度に実施した研究の成果を記述する。 (1)マグネタイトを用いた新しい年代測定法の確立 岩石中マグネタイト鉱物は,地形変化年代測定のための試料としての理想的要件を揃えていることに着目。マグネタイト中の長半減期宇宙線生成核種の加速器質量分析法を開発し,地形変化年代測定法の確立を目指す。当該年度において,加速器質量分析のための微量分析の行える実験室環境作り,及び化学的な分析手法の検討を行った。検討実験には市販のマグネタイトを用いた。マグネタイトはシュウ酸のみでも溶解可能な条件があることがわかった。宇宙線生成核種の化学分離法についても検討中であるが未完成であり,予定通り次年度も引き続き検討する。 (2)ミュー粒子による放射性核種の生成率測定 地中の宇宙線生成核種の深度分布は精度良い年代を与えるが,地中深くの最大寄与であるミュー粒子による生成速度が不確定である。そこで,加速器で生成させたミュー粒子を標的に照射する実験を行い,現在良くわかっていないミュー粒子による生成速度を実験・理論両面から求める。当該年度においては,様々な標的核のミュー粒子核破砕に関する実験データを取得し,ミュー粒子核破砕の概略を得ることに主眼を置いた。米国立フェルミ加速器研究所に9月と2月の2回滞在し,120GeV陽子加速器のNuMIビームコースでミュー粒子の照射実験を行った。様々な標的にミュー粒子を照射し,生成した放射性核種を現地でゲルマニウム半導体検出器を用いて定量した。照射済み標的は日本に持ち帰り,引き続き分析中である。ミュー粒子核反応が光核反応に類似しているようであることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米国立フェルミ加速器研究所の120GeV陽子加速器は予定通り運転され,ミュー粒子照射実験を計画通り2回行うことができた。分析状況も順調であり,ミュー粒子核反応が光核反応に類似しているのではないかというところまで明らかにすることができた。国内で行っているマグネタイトの分析法の検討については,加速器質量分析のための実験環境の整備が地震の影響によりやや遅れたが,マグネタイトの溶解法に見通しがつくなどおおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)マグネタイトを用いた新しい年代測定法の確立 マグネタイト中の宇宙線生成核種の化学的な分離分析法の検討を進め,早期の確立を目指す。市販のマグネタイトにおける宇宙線生成核種の分離ができたら加速器質量分析を行い,試料の良否を確認する。 (2)ミュー粒子による放射性核種の生成率測定 フェルミ加速器研究所での照射実験を引き続き行い,ミュー粒子核破砕反応の実験データをさらに蓄積する。計算コードによるシミュレーションを開始し,ミュー粒子核反応の理論的な検討を行う。
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