研究概要 |
静岡県伊東市にある近接しかつ環境の異なる2つの浜「いるか浜」と「小網代」について,貝形虫類相,同個体数密度,堆積物粒度組成,有機物量等を比較した.前者は人工の砂礫海岸であり,後者は天然の砂浜海岸である.堆積物の粒度組成は,2つの海岸では大きく異なり,前者は2mmから8mmの粒子が90%以上を占め,後者は0.25mmから2mmの粒子が約70%を占めていた.また各々に生息する間隙性貝形虫類の種構成は,両者間で完全に異なっていた.また,構成する種の体サイズは,前者より産出する分類群が後者のそれに比べ,有意に大きい傾向がとらえられた.堆積物中の珪藻,デトリタスの量の指標として,それぞれクロロフィルaと酸可溶性有機炭素の含有量を量った.両海岸を比較すると,両指標とも小網代がいるか浜の少なくとも5倍高い値となった.特に酸可溶性有機物量には間隙性貝形虫類の個体数密度との間に有意な正の相関がみられた.間隙性貝形虫類の種構成には,生息する堆積物の間隙空間の大きさが関係することが示唆された.間隙空間が大きい堆積物には,小さい堆積物に比べ,体サイズが大きな分類群が生息する傾向が示唆された.また個体数密度は,堆積物粒度に起因した酸可溶性有機炭素の含有量に影響を受け,この含有量が少ないと制限されることが示唆された. さらに,種子島などに赴き,間隙性貝形虫類の地理的分布範囲を考察した.これによると,種子島と駿河湾沿岸の間に共通種が存在し,間隙性種であっても種レベルで広い分布範囲をもつものが多数存在することが明らかになった.これは,今後表在性種の種多様性と比較する意味において重要な知見となる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
間隙水の温度,塩濃度,溶存酸素量等の基本的な物理化学的データに加え,堆積物に付着した酸可溶性有機物量,間隙水中のクロロフィルa量の測定方法などが概ね確立しつつある. 未記載種に関する記載は順調に進んでおり,一部印刷公表され,されなる分類群を新種として公表準備が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
間隙性と表在性の分類学的多様性を比較する場合のフォーマットについて検討してゆきたい.分類学的多様性のなかで,系統的多様性については,分類階級そのものが両者間で系統に対して異なることも十分に予想されるので,分子系統による評価を導入することを検討する. また,島嶼のような場で間隙性と表在性の分類学的多様性を比較することも重要であると考え,そのモデルとなるフィールドを検討する.
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