研究課題/領域番号 |
23370042
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
塚越 哲 静岡大学, 理学部, 教授 (90212050)
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研究分担者 |
宗林 留美(福田留美) 静岡大学, 理学部, 講師 (00343195)
中尾 有利子 日本大学, 文理学部, 助教 (00373001)
GRYGIER Mark 滋賀県立琵琶湖博物館, その他部局等, 上席統括学芸員 (60359263)
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研究期間 (年度) |
2011-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 間隙性生物 / 貝形虫 / 海岸地形 / 生物多様性 / 分類 |
研究概要 |
静岡県の7海岸,福井県の1海岸,京都府の5海岸,計13海岸について,Wiegel(1964)によって提唱された海岸の露出度(砂浜の傾斜と堆積物粒径の中央値によって定める)に基づいて評価し,そこに生息する間隙性貝形虫類の個体数密度,種構成との関連について考察した.全13海岸の中で個体数密度が最も高い海岸では堆積物1,500ml当たり2,766個体,最も低い海岸では同じく堆積物1,500ml当たり6個体となり,概ね露出度の高い海岸で個体数密度が制限される傾向が見られた.また分類群に着目すると,海岸の露出度に対する適応能力が分類群ごとに異なることが示された.すなわちMicroloxoconcha属の個々の種は,特定の露出度の海岸へ適応が限定される一方,属全体としては様々な露出度の海岸に適応していると見ることができる.これに対しParvocythere属の個々の種は,概して堆積物の中央粒径が0.8mmから1mmの間の海岸に生息が限定され,属全体として露出度の高い海岸へ適応する能力は低いことが示唆された.本研究では,間隙性貝形虫類の海岸の露出度への適応は決して一様ではなく,分類群ごとまた各分類群の個々の種で,それぞれ固有の適応が示唆された.すなわち種単位での海岸の露出度への適応,そして上位分類群ごとの海岸の露出度への適応という階層的な理解が,間隙環境内での生物の適応や分散,進化を解明する重要な足がかりとなるに違いない.本研究は間隙性生物群の主要分類群の1つである間隙性貝形虫類の生息と海岸の露出度との関係を評価した初めての例であるが,ここで示されたことは,貝形虫類にとどまらず,他の間隙性動物にも共通してみられる傾向であるかについても,考察してゆきたい.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本における間隙性貝形虫類の生物相は,かなり明確に把握できてきた.ただし,東北日本については,いまだデータ不足である.種レベルでの未記載分類群は相変わらず多いが,属レベルではほぼ出そろったといってよいところまで来ている. また,間隙性貝形虫類の個体群密度に大きく影響を与える要素として,「海岸の露出度」の観点を加えることができたことは,大きな進歩である.これまで,間隙水の溶存酸素量,有機物量,粒度組成には,個体密度の多寡に関して一定の影響力があることは確かめられたが,必ずしも安定的ではなかった.しかし,粒度組成と海岸の傾斜から評価される「海岸の露出度」の評価は,これまでのどの要素よりも,個体数密度に対して高い相関を得ることができた.また,「海岸の露出度」に対する分類群ごとの特性もとらえ始めることができ,個々の分類群の適応戦略についても考察するきっかけを得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
これまで中心に調査していた潮間帯より深い場所である潮下帯にも,独自の間隙性生物相が形成されている可能性が見えた.また,潮下帯>潮間帯下部>潮間帯中部>潮間帯上部の順に,生息する貝形虫類の体サイズが減少してゆく傾向が見られており,これをデータとして確かなものにしてゆきたい. 日本国内で培われた間隙性貝形虫類の研究上のノウハウは,当然海外においても有効であるはずであり,今後ぜひ海外の調査に向けて準備を始め,海外学術調査の採択を目指したい.これによって,世界的な視野での貝形虫類の多様性を明らかにできることが期待される. このためには,国際会議などに参加して海外のネットワークを構築することが重要である.幸運にも,今年度は韓国で行われる国際メイオファウナシンポジウムに招待を受け,そのワークショップの講師を務めるチャンスを得た.また,本会議においても,共同研究者とともに研究成果の公表に努める.この機会に,間隙性貝形虫類,ひいては間隙性ファウナ全体の国際的ネットワークを構築する足掛かりを築きたい.
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