研究課題/領域番号 |
23390123
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
堀 昌平 独立行政法人理化学研究所, 免疫恒常性研究ユニット, ユニットリーダー (50392113)
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キーワード | 自己免疫 / 自己免疫寛容 / 免疫制御 / 制御性T細胞 / 細胞分化 / 可塑性 |
研究概要 |
制御性T細胞(Treg)は免疫抑制機能にコミットしたT細胞系列であり、環境からの様々な擾乱に対してその"マスター転写因子"Foxp3を安定に発現することにより頑健に抑制機能を発現して自己免疫寛容と免疫恒常性を維持している。我々は、これまでに炎症やlymphopeniaといった環境下で一部のFoxp3^+T細胞がFoxp3発現を失ってヘルパーT細胞へ分化する可塑性を示すことを明らかにしてきた。本研究では、Foxp3^+T細胞のfate mapping解析を行って、可塑性を示すFoxp3^+T細胞の本態を解析した。その結果、この可塑性は、分化したTregのリプログラミングではなく、胸腺および末梢におけるTreg分化過程に伴う一過的かつpromiscuousな(Treg分化を誘導しない)Foxp3発現を反映することを見出した。一方、少数のTregは一過的にFoxp3発現を失うものの、再刺激により頑健にFoxp3および抑制機能を発現することを見出し、その分化状態を"記憶"していることを明らかにした。そして、このTregにおける記憶を伴う頑健なFoxp3発現は、Foxp3遺伝子のDNA脱メチル化により保証されることを明らかにし、TregのアイデンティティーはFoxp3自体ではなくFoxp3遺伝子のエピジェネティックな発現制御メカニズムによって規定されること明らかにした(Miyao et al.Immunity,2012)。 以上の結果は、Tregへの不可逆的な分化を誘導するシグナルはなにか、という重要な問題を提起している。この問題にアプローチするために、inv itroにおけるTreg分化系を利用し、安定なFoxp3発現を誘導するような条件を探索した。その結果、安定なFoxp3発現にはTCRシグナルの強度と持続時間が重要な因子であることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
可塑性を示すFoxp3+T細胞の本態を解明し、Tregは環境によらず安定に分化状態を維持することを証明することができた。そして、この成果をImmunity誌に発表することができた。さらに、Tregへの不可逆的な分化を誘導するシグナルに関して研究を進め、TCRシグナルが重要であるという大きな手がかりを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
Treg分化の過程で、シグナル、転写因子、ヒストン修飾、DNA修飾という各分子素過程がどのように変化してゆくのかをtranscriptomeやepigenomeの時系列解析を通して明らかにする。そして、システム生物学の手法を用いてそれら素過程の間の階層性(順序、つながり)を明らかにして、Treg分化を制御する高次ネットワークの構造とその制御機構を理論的に明らかにする。また、Tregへの不可逆的分化におけるTCRシグナルの重要性を個体レベルで検証する。
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