研究課題/領域番号 |
23500427
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
小泉 恵太 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 准教授 (70377406)
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キーワード | 脳発達障害 / 神経発生 |
研究概要 |
1. 昨年度実施した遺伝子スクリーニングにより、特にFAM107A/Bの2遺伝子が発達瀬要害との関連性が高いと考えられる事から、研究計画を前倒しして、この2遺伝子について哺乳類培養細胞、マウスモデルによる機能解析を行った。このFAM107A/Bは、アスペルガー、統合失調症、双極性障害との関連するヒト染色体ローカスに存在し(Molecular Psychiatry 11, 2006/Schizophrenia Research 39, 2009)、且つFAM107Aに関しては、ヒト死後脳を使った解析から統合失調症、双極性障害者の脳での発現が有意に上昇しているとの報告がある。また、ストレスによって上昇するグルココルチコイドによって発現上昇が起きるとの報告もある(PNAS, 108, 2011)。 本年度の解析から、FAM107A/B双方ともPC12細胞、マウス胚由来脳皮質の初代培養細胞において、分化誘導初期のneurite先端での局所的な発現が上昇し、F-アクチンの局所発現と良く一致することを突き止めた。また、強制発現によりPC12細胞でのneuriteの伸長、migrationに影響する事も明らかとなった。また、これらの遺伝子の胚期脳での発現がDEX(グルココルチコイドアゴニスト)によって変化する事も明らかとなった。 2. もう一つの研究対象遺伝子であるRoboについてはショウジョウバエモデルの系でセロトニン、ドーパミン神経での強制発現による影響に関し研究を継続すると共に、哺乳類培養細胞であるPC12用い、セロトニンとの関連性につて、neurite伸長やmigrationを指標にした解析系の確立に成功した(論文作成中)。現在、Roboとセロトニンとの関連性について検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は攻撃行動を指標とした遺伝子スクリーニングから、発達障害関連遺伝子を絞り込み、その分子機能の解析を行うというものだが、計画以上の速度で遺伝子の絞り込みに成功する事が出来た。結果として、ストレスと関連した遺伝子が浮かび上がって来たが、この対象遺伝子はヒトを対象とした先行研究からも、発達障害や統合失調症などの精神疾患との関連性が相当に高いと考えられる遺伝子である。分子機能的には胚期に同様の発現や分子機能を持つと考えられるDisc1(統合失調症の原因遺伝子の一つとされる)や近年解析が進んでいるAUTS2(自閉症の原因遺伝子の一つ)などの遺伝子があり、これらの遺伝子との関連性が大いに期待される。 また、この遺伝子との関連から、母親のストレスが胚期脳発生に与える影響に関し検討したが、ストレスホルモンが極めて大きな影響を神経migrationに与えることも明らかにする事が出来た。ストレスホルモンと脳発達障害との関連性については、ヒトを対象とした研究から様々な報告がなされているが、いまだに明確な証拠は無い。本研究はストレスホルモンと発達障害との関連性に関する分子レベルでのメカニズムを明らかにする大きな一歩となるものと期待している。 一方で、従来から研究対象とし研究を推進しているRoboについては、哺乳類培養細胞の系での研究へ発展させる事が出来た。今後のセロトニン受容体アンタゴニストなどの薬物を利用した系での解析を進める予定であり、ショウジョウバエの系での成果から、哺乳類での実験への移行が順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1. FAM107A/Bに関しては前年度途中から、vivoでの遺伝子機能を探るため、in uteroエレクトロポレーションによる遺伝子導入を行っており、本年度はこれを推進しvivoでの分子機能を明らかにする。また、上述の通り、発達障害、統合失調症の原因遺伝子であるAUTS2、Disc1は、分子機能的にFAM107A/Bと大いに類似している。これらの遺伝子との関連性を検討する為に、FAM107A/Bの強制発現やRNAi遺伝子ノックダウンによる遺伝子発現の変化を調べる。また、免疫沈降法によりタンパクレベルでの相互作用についても検討する。 3. ストレスホルモンが神経発生、発達に与える影響について胚期のみならず、幼年期以降についても検討する。具体的には攻撃行動により敗者、勝者との間での遺伝子発現の変化(FAM107A/Bのみならず、Disc1、AUTS2など様々な遺伝子を検討)や、海馬でのspain形成の違いなどについても確かめる。 4. ショウジョウバエの系を用い、FAM107A/BホモローグとDisc1遺伝子の機能的関連性を検討する。 5. roboに関してはPC12細胞を使った系での解析を進め、セロトニンとの分子的な関連性を調べると共に、免疫沈降によりneurexin等との関連性について検討を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. In uteroエレクトロポレーションの為の機器(Neppa21)レンタル(2~4ヶ月分)に研究費を使用する。また、この実験等に必要な実験補助員を雇用する。 2. 免疫沈降やRT-PCRの為に必要な関連試薬の購入にあてる。 3. その他、細胞培養(分子の神経内での局所発現を観察するため等)、DNA精製(強制発現ベクターを増やす)、抗体購入(2次抗体など)などに使用する。 4. ショウジョウバエを用いた実験については、主に餌、飼育チューブ代などにあてる。
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