研究課題/領域番号 |
23500649
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
須藤 正時 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70437094)
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キーワード | HMD |
研究概要 |
本研究は加齢等に伴い中途難聴者になった人や生まれながらの聴覚障害者の人たちが屋外歩行する際の安全、安心を目指している。その実現に向け日常生活で発せられる生活音を音の代わりになる表現(映像、文字)で眼鏡型表示端末・ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)に表示して生活に役立てることを提案している。本研究ではその有益性についてHMDの表示情報の読み取りに対する知覚反応時間を指標として検証した。評価実験1では健常者を対象に音の種類、方向、後方視界の情報を用いた知覚反応時間による事前検証を行った。評価実験2では聴覚障害者と成人を対象にHMDを装着して屋外歩行をおこない、音情報、方向情報を提示し、その際の知覚反応時間を計測した。その結果、自動車運転時の危険回避に対する知覚反応時間の基準といわれる1秒以内に知覚反応時間が収まり、HMDを用いた音の可視化は反応時間の点で有益であることが分かった。ただし評価実験後のヒアリングから音を知る方法として最適な方法かは改善の余地もあることも分かった。また、使用に際しては十分な訓練の必要性など多くの課題が観察できた。 評価実験3では脳血流測定を行った。その結果、聴覚、視覚による音情報取得時の脳の賦活度に違いが見られ、HMDに提示した絵文字の認知に対する賦活度は音の認知に比べ低くなる傾向がある。また、脳の賦活度と反応時間に負の相関があることから、HMDによる音情報の取得時には、処理資源が十分に配分されず、反応時間の遅延を招く恐れがある。方向の情報を提示した際には、反応時間に遅延は見られないものの、視覚による特異な認知作業が求められるため、心理的な負担度を増加させるストレスとなる。しかし、反応時間を危険回避に対する指標とした時、聴覚による音の認知と同様に反応することでき、安全性は確保されると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
評価実験1,2,3を通し健常者と聴覚障害者から得た安全性に関する基本的な評価データが得られた。最大の着目点であった安全速度内で可視化された音に反応できるか、という点では本実験タスクで被験者は安全速度内で反応できた。しかし一方ではHMDを聴覚障害者が実践的に使用する際のさまざまな課題が見えてきた。これはHMDの性能によるところであるが暗いところから明るいところへ出たときの表示の見え難さや眼鏡をかけた人のHMDの固定方法など解決すべき課題が抽出された。現段階で万人に安全が保障されるモノかといえば違う。少なくとも安全に使用するためには事前の訓練を必要とする。その訓練をし安全に屋外で使用できるようになった時には生活に役立つ可能性が見えてきた。これらのことから今年度、目標とした実使用者における安全性に対する検証の第一ステージでは一定の成果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにわかった問題点に対し短期で対応できる点を盛り込んだ試作機を作る。 それを用い実生活の中でモニター評価を行う。 更なる課題抽出を行う。当初の繰り返しの評価実験を行い、有益性の向上を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
検証用の試作機の製作。これまではPCから送信したデータをHMDに送信して反応時間を計測。今年度は屋外で必要な音をだしそれを音判別装置で判別しそれをHMDへ表示しそれらの一連の装置の有効性を検証する。 9月末を目標に試作機の製作。10月より聴覚障害を持つ被験者に模擬路上で実験。使用する音はこれまで用いた自動車のクラクション、救急車、自転車のベルの音とする。 今回使用している音を継続して評価指標とするが実際のところ真に必要としている屋外活動での音は何かを必要頻度の点から検証しながら進める必要を感じている。
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