1.最終年度実績の概要。研究最終年度の平成26年度の課題は、五の形及び天神真楊流の形と当身技との関係、また唐手の柔術・柔道技術構造への影響等についてであった。五の形については文献の比較分析から抽出した動作を撮影してバイオメカニクス的分析を行い、文理融合のユニークな研究論文に仕上げた。それによって示唆された知見は、嘉納が創作した五の形の一本目には彼の述べた言葉を越えて、柔術における当身技の新しい可能性が見られたことにある。天神真楊流と当身技との関係に関する研究は未だ完結していないが、現在論文化しつつある。唐手と柔術・柔道との関係については、精力善用国民体育と唐手、また精力善用国民体育と中国武術との関係へと分節深化してIMACSSS国際会議(ポーランド)で報告されたのち英語論文化され、IMACSSSジャーナル上での公開待ち(2016年予定)である。特に嘉納が柔術と中国武術との類似性に言及している事実を踏まえて Shuai jiao との類似性を示した点は高く評価されると考える。 2.研究期間全体実績の概要。本研究計画作成段階では将来の柔術(柔道)のあり方を求めて嘉納治五郎の武術としての柔道思想の変遷と内容を検討するために、(1) 当身技に対処する観点から見た、草創期の講道館柔道と柔道の形及び天神真楊流の形との関係。(2)植芝盛平の大東流合気柔術のどの点に嘉納の求める武術性があったのか。(3) 唐手(空手)と精力善用国民体育との関係解明と、唐手と柔術及び武術としての柔道との関係。(4)富木謙治の「柔道に於ける離隔態勢の技」理論(1942)の問題点とその後の発展及びその問題点の四つの課題が設定された。このうち(1)及び(3)については上記のように最終年度に具体的成果を得た。(2)については平成25年度に体育学会で研究発表がなされるに止まった。上記3点が密接に関わる(4)については本研究期間内では具体的な成果を示すに至らなかった。
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