研究課題/領域番号 |
23500990
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研究機関 | 西南女学院大学 |
研究代表者 |
田川 辰也 西南女学院大学, 保健福祉学部, 教授 (50347142)
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キーワード | 血管内皮機能 / 動脈硬化 / 酸化ストレス / 栄養学的介入 |
研究概要 |
現在、日本人の死因の2位は心臓病、4位は脳血管疾患であり、その合計は約30%で、日本人の30%は血管病で亡くなっている。したがって、心血管病や動脈硬化症の予防は日本社会の急務といえる。最近では肥満やメタボリックシンドロームの動脈硬化、さらには若年や子どものメタボリックシンドロームが問題になっている。動脈硬化はその前段階として血管内皮機能障害を認める。したがって、血管内皮機能障害の段階で何らかの介入を行えば、血管内皮機能が改善し動脈硬化の進行を抑えられ、将来発症すると考えられる心筋梗塞、脳卒中の発症抑制につながると考えられる。 現代の食生活は欧米化し、魚の摂取量が少なくなる一方で、脂肪の摂取量が多くなっている。4割以上の人で脂肪エネルギー比率が25%を超え、30%を超えている人が2割以上もいる。この食生活状況が続けば、若年成人ですでに血管内皮機能障害が生じ、将来の心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患の発症は増加すると考えられる。 本研究では、①若年成人の血管内皮機能と脈波伝播速度(baPWV)及び酸化ストレスを測定し、血管内皮機能障害の程度や血管弾性を調べ、食生活との関連を明らかにすること、②動脈硬化を予防することが期待されている抗酸化食品(茶カテキン等)やエイコサペンタエン酸の血管内皮機能や血管弾性及び酸化ストレスに対する効果を調べること、③食事習慣の改善、特に脂肪の摂取量の抑制による動脈硬化抑制効果を検討すること、④運動習慣の改善による動脈硬化抑制効果を検討することを研究目的とする。 本年度は、エイコサペンタエン酸の作用について検討した。その結果、若年成人女性にEPAを1日約300mg、28日間投与により、baPWVの改善が認められた。この結果から、EPAは血管拡張機能を改善させると示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では食品が、ヒトの血管内皮機能と脂質代謝に対する影響を検討している。本年度は、若年健康成人に対して、エイコサペンタエン酸が、血中脂質や血管拡張機能に及ぼす影響について検討した。対象は20代女性健常人6名、採血検査とformを用いて、血中脂質およびbaPWVを測定し、血中脂質や血管拡張機能が改善するかどうかを検討した。その結果、エイコサペンタエン酸(約300mg/日、28日間)投与前後で体重、血圧は有意な差はなかった。また、総コレステロール値、トリグリセリド値。HDL-ロレステロール値には変化がなかったが、EPA/AA比(エイコサペンタエン酸/アラキドン酸比)は有意に増加した。また、エイコサペンタエン酸投与前後で、baPWVが有意に改善した。 以上の結果より、エイコサペンタエン酸には若年成人女性に対する肥満や血圧の改善、コレステロール低下などの効果が少ないと考えられる。しかしながら、エイコサペンタエン酸が有意にbaPWVを改善させたことから、エイコサペンタエン酸は、若年健康成人においても、血管弾性が改善させる効果があると考えられる。したがって、エイコサペンタエン酸の服用は、動脈硬化の進行を防止し、心血管イベントの発症を抑制することが期待される。さらに、本研究が若年健康成人における結果であったことを考えると、エイコサペンタエン酸の若年成人からの服用が推奨されるとともに、現代の若年成人のエイコサペンタエン酸を多く含む魚の摂取が不足している可能性も示唆される。 本年度の研究において、エイコサペンタエン酸の血管拡張機能改善作用が解明されたことから、おおむね目標が達成されたと考えられる。次年度以降、アルギニンと抗酸化ビタミンの血管内皮機能に対する相互作用や運動の血管内皮機能改善に体する効果の研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後①~④の方策にて、研究を実施していく方針である。 ①アルギニンと抗酸化ビタミンによる若年健康成人の血管拡張機能と血中脂質に対する効果に関する研究:アルギニン投与群とアルギニン+抗酸化ビタミンの投与群で、安静時および反応性充血時の前腕血流量、baPWV、FRAS4による酸化ストレス度の測定し、両群を比較検討し、アルギニン投与による血管拡張機能改善効果と血中脂質に及ぼす作用が、抗酸化ビタミンの同時投与に影響を受けるかどうか検討する。 ②食事の脂肪エネルギー比率の違いが血管内皮機能に及ぼす効果に関する研究:脂肪摂取エネルギー比率が20%、30%の群において、安静時および反応性充血時の前腕血流量、baPWV、FRAS4による酸化ストレス度の測定し、脂肪摂取エネルギー比率の違いにより、血管内皮機能に差が生じるかどうか検討する。 ③運動の強度の違いによる血管内皮機能に対する効果の違いに関する研究:10Wで30分の運動、もしくは、30Wで10分の運動を実施する前後で、安静時および反応性充血時の前腕血流量、baPWV、FRAS4による酸化ストレス度の測定し、運動強度の違いによる運動の血管内皮機能に対する効果について検討する。 ④食事時間および食後の運動と血管内皮機能、血管弾性の関連に関する研究:クッキーテスト用のクッキー(糖質 75g、脂質 28.5g)を10分もしくは30分で食する前後で、安静時および反応性充血時の前腕血流量、baPWV、FRAS4による酸化ストレス度の測定し、食事時間の違いによる、食後の血管内皮機能、血管弾性、酸化ストレス度の変化を検討する。
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