研究課題/領域番号 |
23510085
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研究機関 | 国立水俣病総合研究センター |
研究代表者 |
坂本 峰至 国立水俣病総合研究センター, 疫学研究部及び国際・総合研究部, 部長 (60344420)
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研究分担者 |
安武 章 熊本大学, 自然科学研究科, 研究員 (20344418)
丸本 倍美 (澤田 倍美) 国立水俣病総合研究センター, 基礎研究部, 主任研究員 (00335506)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | メチル水銀 / セレノメチオニン / ラット |
研究概要 |
我々が開発した胎児性水俣病モデル・ラットを用いて、比較的高用量のメチル水銀毒性に対するセレノメチオニン(SeMet)の抑制効果とそのメカニズムに関する検討を行う。方法:哺乳ラット(14日齢、雄)をコントロール、MeHg単独、SeMet単独、MeHg + SeMet同時投与の4群(10匹/群)に分けた。MeHg(8 mg Hg/kg/day)は当モルシステインを含む50%コンデンストミルクを含む溶液として、SeMet(2 mg Se/kg/day)は水溶液として投与前に調整し、それぞれ10日間連続経口投与した。MeHg + SeMet群においては、SeMet投与30分後にMeHgを投与した。結果:コントロール群と比較して、体重と肝重量の低下が MeHgとSeMet 群で起こったが、同時曝露群ではこれらの低下が抑制された。MeHg単独曝露に比べて、同時曝露群では大脳皮質と小脳で総水銀(THg)濃度が上昇し、血液と腎臓では減少し、無機水銀(IHg)濃度は腎臓を除く、大脳皮質、小脳、肝臓で増加していた。更に、各臓器ではIHの%が上昇しSeによる脱メチル化の亢進が示唆された。 MeHg群では大脳皮質と線条体における神経変性が認められ、SeMetとの同時曝露で抑制された。肝臓と血液のグルタチオン量(GSH)の低下がMeHg群で見られたが、SeMetとの同時曝露で抑制された。肝臓と大脳でグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)活性低下がMeHg群で見られたが、SeMetとの同時曝露で抑制された。また、血漿中酸化ストレス値(活性酸素・フリーラジカルによる副産物であるヒドロペルオキシド量)の上昇が観察されたが、SeMetとの同時曝露で抑制された。一方、SeMet群では、血漿のT-Bil上昇といった肝障害を示唆する変化が観察されたが、MeHgとの同時曝露により抑えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回の結果は、脳中水銀濃度は高くなるにも関わらず、MeHgによる神経細胞死がSeMetの同時投与によって抑制されたことを示す最初の報告であろうと考える。その効果はMeHgの中枢への移行抑制によるものではなく、組織内でのMeHgとSe化合物(SeMetから派生)との相互作用によるものと推察される。また、SeMet投与による障害(肝障害)はMeHgの同時投与によって抑えられ、肝臓でもMeHgとSeMetの同時投与で相互に抑制的に作用しあうことが認められた。今回、MeHgは脳での酸化防御システムを脆弱化させる作用があることも認められ、それに対してもSeMe投与は防御的に働いていた。セレノメチオニンは魚類等に存在するセレンで、自然界のメチル水銀曝露では、メチル水銀とセレンが共存するか、もしくは双方ともに高い状態が起こっており、自然界ではセレンがメチル水銀の中枢における毒性発現に抑制的に働いている可能性が示唆される貴重な成果と考える。
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今後の研究の推進方策 |
鯨類研究所と水産総合研究センター国際水産資源研究所との共同研究で、太地町沖で捕獲された、各種クジラ類の水銀の化学形態別分析、セレンの分析検討を、生物学的情報(体長、性別、成熟度、可能なものは年齢)を加味して検討する。脳の発達期ラットに於けるメチル水銀中毒発現に対するセレノメチオニンの防御効果に関する研究を、平成22年度より低濃度のメチル水銀とセレノメチオニン用量で行い、神経行動学(学習、情動運動、筋協調運動)を中心に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度については、主だった実験及び分析については所属研究機関からの予算を使用したため、次年度使用として繰り越すことになった。次年度以降の使用計画としては、実験用ラット及び実験用試薬とFRAS分析用キットの購入、実験ラットのセレン分析の外注、総水銀・メチル水銀値分析を行う。また23年度に引き続き、学会への参加・発表を行う予定。
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