研究課題/領域番号 |
23510254
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
尾山 大明 東京大学, 医科学研究所, 准教授 (30422398)
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研究分担者 |
秦 裕子 東京大学, 医科学研究所, 技術専門職員 (80401256)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流 |
研究概要 |
近年H.pylori感染において、病原因子の一つであるCagAが胃上皮細胞内のシグナル伝達因子をチロシンリン酸化し、細胞の癌化に関与することが明らかとなってきた。本研究課題では感染による病態をシステムレベルで理解するために、H.pylori感染におけるシグナル伝達因子の時系列活性変動データを包括的に取得することを目標とする。本研究グループはこれまでにSILAC(Stable Isotope Labeling by Amino acids in Cell culture)法をベースにしたチロシンリン酸化ネットワークの相対変動解析法(Blagoev et al., Nat. Biotechnol., 22, 1139-1145, 2004)を基盤として方法論の改良に取り組み、(1)チロシンリン酸化蛋白質の包括的回収・特異的溶出法の開発、(2)溶出物の一括酵素処理によって調製されたサンプルに関するショットガン解析を行うためのnanoLC-MS/MS測定系の構築、そして(3)得られた生データから自動で相対定量を行う情報解析システムの開発を進め、サンプル調製から活性変動データの作成に至るまでスループットが非常に高い実験系を確立している(Oyama et al., Mol. Cell. Proteomics, 8: 226-231, 2009)。平成23年度はSILAC法を用いてヒト胃上皮細胞内のチロシンリン酸化シグナル伝達因子群に関してH.pylori感染後5タイムポイントの時系列データを取得し、さらに相互作用プロテオミクス法によりCagAの新規結合蛋白質を併せて同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
nanoLC-MS/MSオンラインシステム(3台)、タンパク質同定検索エンジン(Mascot)、サンプル調製に用いる真空遠心機等、高感度プロテオミクス解析を行う全ての設備を本研究グループで現有しており、また研究分担者の秦はnanoLC-MS/MSシステムの操作技術やメンテナンス技術をほぼ完全に習得し、自在にシステムを操作することができる状態にある。従来設置されていたDiNa-QTof2(KYA technologies社、Waters社)、DiNa-QSTAR Elite(KYA technologies社、AB SCIEX社)システムに加えて精度、スキャンスピード等が大幅に改善されたDiNa-LTQ Orbitrap Velos ETD (KYA technologies社、Thermo Fisher Scientific社)システムが現在稼働しており、東京大学医科学研究所内のプロテオーム専用施設にて安定した測定環境の中、順調にデータを取得している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成21年度末に東京大学医科学研究所附属疾患プロテオミクスラボラトリーに導入された2次元nanoLC-MS/MSシステム(DiNa-LTQ Orbitrap Velos ETD)を用いて、リン酸化プロテオームに関するハイスループット時系列定量システムの構築に向けた予備検討を行い、200μgのヒトHeLa細胞抽出液を出発試料として1,300種類以上のリン酸化ペプチドを同定することが可能となっている。今後、上記で確立した大規模リン酸化プロテオミクス解析技術を用いてH.pylori感染におけるリン酸化時系列データを包括的に取得し、病態との関連をシステムレベルで解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題で行うプロテオーム解析は高い定量精度が求められる実験系であり、測定サンプル間の相互コンタミネーションは極力抑えなければならない。そのため、nanoLCに関する消耗品(nanoLC用トラップカラム、nanoLC用分析カラム、ESIスプレイヤー)は適切な頻度で新しいものに付け替える。その他、胃上皮細胞を培養するための細胞培養用のプラスチック製品、解析サンプルの調製に用いるリン酸化因子精製試薬、オシネジ、キャピラリー等の nanoLC関連の消耗品並びに質量分析計の消耗部品を購入する予定である。また、国内の学会や打ち合わせのための旅費、論文投稿のための経費を併せて予定している。
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