中国政府は、新聞、テレビ、インターネットなどのメディアに対してダブルスタンダードの政策をとっている。イデオロギーに関わる報道やドキュメンタリーの部分と、それ以外の領域を「事業」と「産業」にわけ、前者を中国共産党のプロパガンダとして厳しく管理しながらも、後者においては大胆な市場化をすすめるという二重基準を採用しているのである。メディアの市場化はすでに改革開放政策がとられた当初からはじまっており、1990年代の市場経済化の過程で進行したが、本格的な産業化は2000年代に入ってからといえる。WTO加盟にあたってメディアを含めた文化産業の振興策が強く推し進められ、また08年の北京五輪前後から、ソフトパワー向上、対外的な発信力強化を目的とした文化産業の対外進出もはかられている。本研究ではまず、中国政府の文化産業政策の推移を跡付け、その後、ネット産業やメディア制作会社など民間セクターの事例を調査した。さらに、メディア産業に投資をするファンドの動きを分析し、ダイナミックに展開する中国のメディア産業のありようを明らかにした。あわせてイデオロギー管理の問題も同時並行的に追った。2000年代後半以降、ネット世論が報道に大きな影響を与えており、そこに当局が介入するという現象が広く見られるようになった。エンターテイメントといった領域においても、当局の恣意的な介入が行われている。中国のメディア産業も、中国の経済同様に、規模から見るときわめて大きなものに成長をした。時に、産業がイデオロギー領域に挑戦をするという現象も現れている。しかしながら、イデオロギーでは共産党の統制がゆるむことはない。産業としてのメディアは、党・政府の規制の上に、市場化の果実を味わってもいる。現在の中国メディアは、当局によるイデオロギー統制と、市場により牽引される産業が、時にせめぎ合い、時に互恵的な関係を築いている、といえる。
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