研究課題/領域番号 |
23520033
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研究機関 | 仙台白百合女子大学 |
研究代表者 |
原田 雅樹 仙台白百合女子大学, 人間学部, 准教授 (90453357)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 概念の哲学 / ヴュイユマン / グランジェ / 非可換幾何学 / 作用素代数 / 代数幾何学 |
研究概要 |
J. Cavaillesによって導入され、J. VuilleminやG.-G. Grangerらによって展開させられたフランスのエピステモロジーの一つである「概念の哲学」を現代数学の文脈において実行する、というのが本研究の目的のひとつである。そして、数学の概念史に「概念の哲学」の方法を用いて哲学的分析を施した彼らの著作を丁寧に読み解き、「概念の哲学」の方法論の理解を深め、日本に紹介することも、本研究の課題の一つである。そこで、平成23年度は、代数方程式の解の探求からガロア群の誕生、さらにはガロア群の拡張に対して哲学的分析を施しているVuilleminのLa Philosophie de l'algebre (1962) を批判検討しながら日本に紹介する論文を執筆した。それは、平成24年5月に完成する予定であり、本年度中には共著書の中の一章として出版する予定である。Vuilleminのこの著書の思想を発展深化させるには、群よりもさらに一般的な「亜群」や「ガロア圏」といった概念の分析が有効であろうことに気付かされた。 5年ほど前から、A.Connesによって導入された非可換幾何学における概念生成についての哲学的分析を行っているが、その成果は論文 "Etude phenomenologique, epistemologique et hermeneutique de la geometrie non commutative"として Revue philosophique de Louvain, 2012, 2(5月発行)に掲載される。この方向の研究は、平成23年度も続けた。特に、Vuilleminの先の著作を読みながら、ガロア群、さらには亜群という概念の重要性に気付かせられたが、これらの概念は、非可換幾何学と数論、そして数理物理学との関係において重要な役割を果たす概念でもある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Vuilleminの著作を丁寧に読解し、批判検討することにより、そこにおける思想をどの方向に拡張しながら、本研究における概念分析の対象となる非可換幾何学や代数幾何学といかに関連付けていくかという方向性が、ある程度明らかになった。すなわち、亜群やガロア圏といった概念がVuilleminの思想と非可換幾何学の概念分析を接続する大切な概念であることが予想される。それと同時に、Vuilleminの思想には欠けている代数と数論や数理幾何学との間に見出されるダイナミックな干渉が、非可換幾何学には見出すことができるであろう。そのためにも、亜群やガロア群の今後の哲学的分析は興味深いものである。 ただし、23年度は非可換幾何学の解析的側面を丁寧に分析する予定であったが、実際には、亜群やガロア群といった代数的概念の考察が主たる研究内容になり、解析的側面の研究があまり進まなかったことは否めない。しかし、亜群やガロア圏の今後の分析は、代数的かつ圏論的視点からの非可換幾何学の理解を深めると予想されるため、解析学と代数学の概念間の干渉を明らかにするという本研究の目的を達成するための大切な道具となりうるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
Connesの非可換幾何学においてC*代数と幾何学的位相空間に対応を与えているのは、Gelfand-Neimark定理であるが、Grothendieckのスキームによる代数幾何学の再構築が、非可換幾何学に大きなインスピレーションを与えている。Connes の非可換幾何学は関数解析における作用素に代数構造を入れた作用素環論を出発点として、それまでの古典的な位相幾何学や微分幾何学における具体的モデル、さらに量子力学や場の量子論といった物理理論を考え、それと形式的にアナロジカルな体系を築くことを目指している。非可換空間は作用素代数と同型性を持つという意味で幾何学的空間なのかもしれないが、もはや通常の点の集合としての空間ではなくなるので、「幾何学的図形」なるものはなく、幾何学的空間とは言い難いものを持っている。それにも関わらず、古典的幾何学における具体的モデルとのアナロジーと切り離されることはない。 24年度の研究計画は、以上のようなことを明確化することであるが、非可換幾何学の現在のConnesによる研究動向に予定よりも注意を払うことにする。すなわち、非可換幾何学と、亜群やガロア理論などを介した数論との関係が、重要であることが判明したからである。そのため、Grothendieck流の代数幾何学の概念分析の研究は、予定より遅れるかもしれない。
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次年度の研究費の使用計画 |
8月21日から25日にベルギーのUniversite de Louvain-la-Neuveで開催されるSocietes philosophiques de langue francaiseへの学会参加、発表のための参加費、渡航費、滞在費を25万円ほど計上したいと思います。ベルギーとパリでの連携研究者らとの会合、及びフランスでの資料収集のための渡航費と1週間の滞在費を25万円ほど計上したいと思います。研究に必要な書籍や消耗品などのために20万円を計上したいと思います。
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