研究課題/領域番号 |
23520033
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研究機関 | 仙台白百合女子大学 |
研究代表者 |
原田 雅樹 仙台白百合女子大学, 人間学部, 准教授 (90453357)
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キーワード | 概念の哲学 / ヴュイユマン / グランジェ / 非可換幾何学 / 作用素代数 / 代数幾何学 / ガロア理論 |
研究概要 |
ガロア理論の哲学的分析ともいえるVuilleminのLa Philosophie de l'algebre を批判検討しながら日本に紹介する論文を、平成23年度より執筆し始めていたが、それを完成させ、論文「ヴュイユマンにおける〈代数学の哲学〉―ガロア理論から操作・作用の存在論、構造分析の方法論へ」として出版した。 この研究を通して、哲学を数学をはじめとした諸科学と切り離すことをせずに、一方で哲学史における重要なテキストを解釈し、もう一方で、数学史をはじめとした科学史における重要なテキストを綿密に読み込んで、その背景にある方法論や概念生成の仕組みを把握し、哲学と科学に関連性を見出していくという、Vuilleminの哲学の方法、並びにその現代的意義を明らかにした。また、彼の哲学における操作・作用の存在論が、もっと一般的な行為の存在論を目指している可能性があることも示した。しかし、ブルバキの構造主義的数学に強い影響を受けたVuillemin の哲学は、操作・作用を顕在化させるために、対象を捨象する傾向にある。このVuilleminの主張は、Granngerの哲学が強調する操作・作用と対象の双対性を考慮しながら、再検討する必要があるがあることを示した。 Vuilleminは、群の概念の重要性を主張するが、この著書の思想を発展深化させるには、群よりもさらに一般的な「亜群」や「ガロア圏」といった概念の分析が有効であろう。これらの概念は操作・作用と対象の双対性をはっきりと表現しているように思われる。また、La Philosophie de l'algebreは、クラインを扱う章で、リーマン面の被覆面についても言及しているが、ガロア理論との関係をはっきりとは言及していない。数学的には、被覆面とガロア理論との関係は重要であるので、この関連についての哲学的分析も今後の研究において欠かせない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代数解析における重要概念であり、代数幾何学においても重要な役割を果たしている「双対圏」と「導来圏」という数学概念を、Grangerは哲学へと援用する。そこで、当初、代数解析における「導来圏」にも哲学的分析を施す予定であったが、時間の不足でそれはおそらく不可能になると考えられる。 しかし、23年度と24年度の研究で、ガロア理論についての知見を得、また群のみでなく亜群の概念が重要であることに気付いた。本研究の研究対象である代数幾何学、解析幾何学(リーマン面の幾何学)や非可換幾何学の概念のどれにもガロア理論は深く関わっている。数学的諸概念が特定の領域にとどまることによってではなく、異なった領域の諸概念、特に互いに緊張をはらむ諸概念と積極的に干渉し合うことによって、数学の発展は可能になるということを明らかにすることが、本研究にとっての重要なテーマの一つである。作用素環論と非可換幾何学に「概念の哲学」を施すこれまでの研究を続行するためにも、非可換幾何学の数論との関連を明らかにするためにもガロア理論が重要である。 以上のように、予定していた導来圏の概念の哲学的分析まで行うことはできないが、数学における操作・作用と対象の関係を明らかにしてくれるガロア理論や亜群について哲学的な分析を施しながら、当初の目的の研究を遂行していくことができると考えられる。 なお、24年度には、Societes philosophiques de langue francaiseの学会への参加は都合により出来なかった。しかしながら、24年3月に、類体論の哲学的意味合いを考えているパリ第7大学のJean-Jacques Szcziciniarz 教授と会い、ガロワ理論からどのような哲学的意味合いを引き出せるかを話し合えたことの意味は大きく、今後も研究成果を分かち合いながら、共同研究を進めていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
VuilleminとGrangerの数学に対する視点の違いを射程に入れながら、GrothendieckとConnesの数学観の違いを見ていく中で、非可換幾何学と代数幾何学のそれぞれにおける代数学と解析学の干渉がいかに作用しているかを明らかにする。Granger は、数学概念の生成において、操作が対象化され、また対象が操作化される「操作と対象の双対性」と、数学的対象を歴史性の中で導入したことに着目する。 1956年にSerreは、有名なGAGA論文で代数幾何学と解析幾何学の同型性を証明したが、これは1960年代のGrothendieckのスキームによる代数幾何学の再構築と深く関わっている。Grothendieckは、代数幾何学のスキームによる再構築の中で、圏論に基礎づけられた解析代数を発展させながら代数幾何学を徹底的に抽象代数化していった。 本年度までVuilleminのLa philosophie de l'algebre にヒントを得ながら、ガロア理論に哲学的分析を施すための方向性を得ることができた。ガロア理論は、上述した代数幾何学、解析幾何学、そしてConnesの現在の非可換幾何学の構築にも大きな役割を果たしている。そのことを用いつつ、幾何学と数論が、代数学と解析学を媒介にして干渉しているかを分析し、その結果、形の概念と数の概念がどのように干渉しているかをみていきたい。そして、そのような異質の諸概念の間の干渉が哲学的認識論においても重要であることを示しつつ、フランスの科学認識論と英米の科学哲学の対話の可能性を探っていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
ベルギーとパリでの連携研究者らとの会合、及びフランスでの資料収集のための渡航費と1週間の滞在費を30万円ほど計上したいと思います。 研究に必要な書籍や消耗品などのために30万円を計上したいと思います。
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