研究課題/領域番号 |
23520187
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研究機関 | 東京音楽大学 |
研究代表者 |
園田 みどり 東京音楽大学, 音楽学部, 講師 (60421111)
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キーワード | イタリア・オペラ / ヴェルディ / オペラ台本 / リブレット |
研究概要 |
平成24年度は、昨年度に引き続き、ヴェルディの10作目のオペラであり、シェイクスピアに基づくヴェルディの3つのオペラの第1作にあたる《マクベス》(1847、1865改訂)を取り上げ、興行主ラナーリおよび楽譜出版社リコルディとの契約、作品の構想、歌手の確保、台本作家ピアーヴェとのやり取り、台本制作協力者マッフェイの介入時期、各幕の作曲の進捗状況、興行主に対するヴェルディの上演にまつわる指示など、初演に向けての一連の出来事を時系列に沿って整理し、論文「ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ《マクベス》――フィレンツェ初演版(1847)の成立経緯について」(『東京音楽大学研究紀要』第36集[2012]、23-45頁)として発表した。音楽学や西洋史学の研究者からのみならず、声楽や声楽伴奏、演出など、実技を専門とする芸術系大学所属の諸氏、さらにはオペラ団体主催者からも好意的な反応を得た。 また、平成24年7月にはイタリアのローマで開催された国際音楽学会International Musicological Society第19回大会において、スタディー・セッションの1つ、"Transmission of Musical Knowledge: Constructing a European Citizenship" にパネリストとして参加した。大会ではヴェルディ全集総主幹Philip Gossettが司会を務めるイタリア・オペラについての複数の研究発表にも接することができた。 平成25年3月に再び渡伊し、ヴェルディの故郷ブッセートにあるヴェルディ関連の博物館を訪問するとともに、ボローニャの大学付属図書館、および市立図書館において19世紀のイタリア・オペラ台本に関連する、日本では入手困難な文献を調査・入手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はヴェルディのイタリア・オペラ全曲を対象とすることを目指しているが、台本の校訂版は存在せず、楽譜についても校訂版が未だ全オペラの半数程度しか刊行されていない現状では、すでに先行研究の蓄積のある作品を対象に、ヴェルディが台本作家にどのような言語表現を要求したのかを具体的に明らかにすることが、まずは重要であろう。当初予定していた《リゴレット》(1851)ではなく、《マクベス》(1847、1865改訂)を初年度から継続して取り上げているのは、《マクベス》については《リゴレット》の場合のような検閲の影響が少なくとも初演に至るまでは認められず、また通常は所在不明の、ヴェルディが作曲に際して使用したと思われる自筆台本が《マクベス》については発見されており、しかもそれがFrancesco Degradaによって十分に研究されているためである。よって、今後も《マクベス》を対象して考察を進める。 本研究の目的達成のためには、ヴェルディのイタリア・オペラを1作でも多く取り上げて考察を行うことが必要である。そのため、《マクベス》のように自筆台本は現存しなくても、台本完成に至るまでのヴェルディの要望が書簡などで具体的に跡付けられる他の作品についても、調査を開始した。《アイーダ》(1871)はその一例である。 また、ヴェルディが当該の言語表現をどのような「音楽的」理由で選択したのかをより厳密に考察するため、台本成立経緯はそれほど判明していなくても、自筆による楽譜のスケッチが現存しているためにヴェルディの作曲プロセスがより詳細に再構築できる《トラヴィアータ》(1853)についても、研究を行った。 なお、オペラ・アリアにおける歌詞の文芸技法とその音楽化については、ドニゼッティ(1797~1848)の作品を対象とするPagannoneの研究(1996)を出発点として、考察方法を検討し始めた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、まず《マクベス》の改訂版(1865)成立経緯を先行研究に基づいて整理・確認する。その成果は、所属研究機関の紀要に発表する。また、ヴェルディ全集の《トラヴィアータ》の巻を担当したFabrizio Della Setaによる一連の研究に基づき、19世紀のオペラについて、台本と楽譜の校訂版を作成する際にどのような文献学的な問題が生じるものなのか、またそれが初演から現在に至る演奏史とどのようにかかわっているのかを考察する論文も執筆し、勤務先の研究紀要に発表する。これらの論文を通して、ヴェルディのオペラ台本および音楽テクストを確定することの難しさも、間接的に明らかになるだろう。 なお、歌詞の文芸技法とその音楽化については、引き続き、上記Giorgio Pagannoneの研究とそこに引用されている文献を手掛かりに、考察を進めることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成26年春に、資料調査と研究者との意見交換のため、イタリアに赴く(旅費)。また、2013年に刊行されたヴェルディのオペラ《アッティラ》(1846)の校訂楽譜、ペーザロのロッシーニ財団によって出版されているロッシーニ(1792~1868)のオペラ校訂台本など、19世紀イタリア・オペラ関係図書、楽譜の他、CD、DVD、楽譜浄書のためのコンピュータソフト等を購入する(物品費)。
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