研究課題/領域番号 |
23520279
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
村上 東 秋田大学, 教育文化学部, 教授 (80143072)
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研究分担者 |
大田 信良 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (90233139)
塚田 幸光 関西学院大学, 法学部, 教授 (40513908)
中山 悟視 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), その他部局等, 准教授 (40390405)
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キーワード | アメリカ合衆国 / 冷戦期 / 表象文化 / ソフト・パワー / 文化装置 |
研究概要 |
昨年度末ようやく『冷戦とアメリカ 覇権国家の文化装置』(臨川書店)を出版。赤狩りや反共産主義キャンペーンといった、文化現象においてもはっきりと見える側面(つまり以前から研究され、一般書にも書かれている事柄)ではなく、可視化されていない部分を大きく取りあげたこと(日米関係からみた合州国文化装置、ずらされて描き出される核・放射能の映像、対抗文化と同床異夢であった薬物による人間管理、冷戦作家の範疇に入らないカポーティに読みとる冷戦、など)、ナショナリズムとソフト・パワーという私たちの問題意識から冷戦期合州国文化の対外的な機能(対外的な文化戦略の対象であった日本における合州国冷戦文化受容、など)、殊にモダニズムと新批評の<覇権国家の文化装置>としての機能及びそれらの成立過程をかなりの程度明らかにできたこと(従来はニューヨーク左翼系知識人が議論の中心であったが、私たちは南部の文学者兼大学教授の動向を押さえ、両者の関係を前景化すると同時に、オリエンタリズムばかりが注目されるエドワード・サイードが冷戦文化戦略の批判者であったこともはっきりと指摘している)が収穫である。また、純文学として評価されることの少ないヴォネガットを冷戦期の合州国を代表する想像力として位置づけてもいる。この論集『冷戦とアメリカ』以外でも、塚田『シネマとジェンダー』(臨川書店)、中山『現代作家ガイド6 カート・ヴォネガット』(彩流社)、大田『帝国の文化とリベラル・イングランド』(慶大出版会)、村上『高校生のための地球環境問題入門』(アルテ)などの成果を踏まえた研究を着実に続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分量の関係で核となる批評を中心に記す。文学におけるモダニズムの文化資本化(つまり対外的にはソフト・パワー化)ならびに新批評が持っていた覇権国家の文化装置としての機能は、その成立過程を中心として、明確な像を描くことが今回できたが、CIAの前身であったOSS(戦略情報局)は大学関係者・文化人を動員したもの(この分野には既に宮本陽一郎の研究がある)であり、私たちの研究対象である<文化資本としてのモダニズム>とOSSの関係にはこの3年間まだ触れていない。この問題は、ニューディール知識人と戦後の対日政策の人脈の動向として進藤榮一がかなりの程度明らかにしているが、合州国ナショナリズム(対外的にはソフト・パワーとなる)の動力源である民主主義の問題と深く関わっている。実際に覇権国家の勢力拡大に寄与しても、ご本人たちは世界への民主主義の普及を考えていたのである。こうした二重性(『冷戦とアメリカ』で取りあげたドルトン・トランボにも顕著であるが、問題の頭出しにとどまっている)はさらに考察を進める必要があろう。私たちと共通する部分のある問題意識を持った先行研究を参照しつつ、冷戦期全体をみてゆくことで理科系の再現実験に相当する作業となるのみならず、新たな成果へ繋げることができよう。また、文化資本としての文学の指南書である文学史を、大学及び文化の制度の枠内にとどまりながらも偶像破壊的に書き換えたレスリー・フィードラーもOSS関連の日本語教育に関わっていた時期があり、調べる価値があろう。そして、フィードラーは、ニューヨーク知識人にとって伝家の宝刀であったヨーロッパ文学の知見をナショナリズム偶像破壊に利用した点も、(ニューヨーク知識人の国際性と英米における高等教育の密接な関連においてだが)文学批評における英米の共犯関係についてある程度研究を進めた私たちの視野に入ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
文化資本としてのモダニズムと批評については前項「達成度」で私たちの到達点に絡めて今後の進路もある程度明らかにしたので、この項では、文学史・文化史の書き換えを狙う時系列の研究という同じ顔ぶれで取り組む次回の基盤研究(C)で分量的に多くなると予想される<時系列でみた文化資本のキャノン化>周辺の問題について記す。『冷戦とアメリカ』所収の大田によるサイード論「誰もエドワード・サイードを読まない?」は、サイード受容論と解釈することが可能である。世界における民主主義の教師兼番人である合州国にとってサイードのオリエンタリズムは異文化理解の金字塔であり、ソフト・パワーとしても機能しよう。しかし、冷戦文化制度の批判者としてのサイードは可視化されないのである。そうしたキャノン化とその逆の隠蔽を時系列で明らかにしてゆく作業によって文学史・文化史と政治の関係で新たな指摘が可能となろう。新批評におけるフォークナーのキャノン化は最早常識の一部だろうが、私たちがみてきたカポーティ、ヴォネガット以外の実作者も、と同時に映画や音楽の分野も、視野に入れてゆくべきであろう。そして今後広がってゆくであろう左翼系文学等の、また対抗文化の、キャノン化も分析・考察の対象とするべきと考えている。そして日本における北米文化資本の受容問題からソフト・パワーの実像(越智博美「カワバタと「雪国」の発見―日米安保条約の傘の下で」(『日本表象の地政学』所収)は私たちにとって強力な味方である)を探る段階へと研究を進め、合州国と冷戦期において密接な関係にあった(日本を含めた)諸国との相互照射でさらなる成果を確保してゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
2013年に代表研究者である村上の妹と父が相次いで死亡し、合衆国出張等が叶わなかったことが最大の理由である。また、『冷戦とアメリカ』の編集作業にことの他時間を奪われたことも理由に挙げられる。 合衆国出張(調査旅行)を中心に有効に利用してゆく。
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