平成25年度では、エリザベス朝における宗教・政治関係の研究書、およびアングリカン・チャーチ体制と演劇文化に関する文献・資料を収集し、あわせて①Christopher Marloweに関する研究論文を1件、②Shakespeare劇と社会階級に関する研究論文を1件、それぞれ執筆した。 ①では、「銃・疫病・資本―Marlowe作品現存原稿から照射したThe Massacre at Paris―」を『文藝言語研究 文藝篇』第64巻に掲載した。サン=バルテルミの虐殺というフランス宗教戦争上の1エピソードを扱ったMarloweの戯曲に残されたマニュスクリプトの、戯曲本体上での構成的意義を議論し、それが該当戯曲における政治宗教的意味(プロテスタンティズムの他者化による政治宗教的対立の鮮明化)と経済的コンテクスト(ヨーロッパ大陸におけるフランスの地政学的意味)を指示している点で、重要であることを明らかにした。 ②では、「エリザベス朝演劇における社会的弱者としての病人―感染症罹患者の階層化とTimon of Athensへの一つの視座―」を『文藝言語研究 文藝篇』第65巻に掲載した。皮膚疾患を伴う感染症の罹患が共同体における階層化を生成することを、古代文明や西洋古典の事例を踏まえながら指摘し、その知見を該当戯曲の分析に応用し、贈与や金融といった経済的意味の検証に偏りがちなTimon of Athensに関して、疫学的見地から照射されうる意味の存在の重要性を指摘した。 また、上記実績とは別に、John Lylyの初期喜劇に関する調査を開始した。散文ロマンスで成功を収めたLylyが、1580年代前半に演劇創作に着手した動機として、宮廷廷臣の知己を梃子にしたキャリア構築の戦略が存在することを解明する予定である。
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