研究課題/領域番号 |
23520415
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
坂巻 康司 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (70534436)
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研究分担者 |
寺本 成彦 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (30252555)
森本 淳生 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 准教授 (90283671)
大出 敦 慶應義塾大学, 法学部, 准教授 (90365461)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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キーワード | 比較文化 / 日仏文化交流 / 近代日本文学 / フランス象徴主義 / 戦争 |
研究概要 |
この研究は明治大正期から昭和に至る近代日本文学史において、フランス象徴主義がいかなる影響を及ぼしてきたかを総合的な視点から考察することを目指している。当初は時系列順に研究を行う予定であったが、発表者の都合により、平成23年度は研究計画の後半部分についての共同研究からスタートさせることになった。 今年度は昭和初期から太平洋戦争開戦前後におけるフランス象徴主義の影響を探ることを目標として研究を進めることになった。この時期の考察対象として重要な文学者たちは小林秀雄であり、マチネ・ポエティクの作家たち(特に、加藤周一・中村真一郎・福永武彦)である為、必然的にこの二つの対象に絞って考察を行うことになった。 研究過程は公開するという原則に則り、『魅惑と離脱の狭間で-近代日本・戦争・フランス文学』という総合タイトルを冠し、東北大学大学院国際文化研究科会議室において公開連続講演会を開催した。まず平成23年10月24日、研究分担者である森本淳生氏が「意識の夢が覚めた後に人は戦士となるのか?―小林秀雄におけるヴァレリー受容の変遷」と題する報告を行い、小林における「意識」の問いが、ヴァレリーを受容する過程でいかに変貌して行ったのかについて、様々な資料をもとに綿密に分析した。続いて12月2日、金沢大学からお招きした岩津航氏が「福永武彦における象徴主義絵画」と題する報告を行い、福永の小説作品においてゴーギャンやベックリンなどの象徴主義絵画に言及される理由について、作者の思想に深く切り込む緻密な分析を試みた。小林においても福永においても、作品のなかに第二次世界大戦の傷音が間違いなく反映されており、その中でフランス象徴主義の作品が重要な意味を担っていることが明らかとなった。フランス象徴主義と第二次世界大戦との関連を追及するこの共同研究にとって、貴重な研究成果が披露されたと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、明治・大正・昭和初期における日本文学の諸相において、フランス象徴主義文学の影響下に誕生した幾つかの日本文学作品が、近代日本文化を形成する過程で、いかなる意味を持ち、いかなる役割を果たしたのかを、特に戦争とのかかわりを重視しながら、具体的かつ詳細に研究することを目的としている。そのような観点から、今年度は昭和初期という時代に焦点を絞り、小林秀雄、福永武彦というその時代を代表する作家の作品を綿密に分析することによって、作業を進めることを試みた。結果として、彼らの作品におけるフランス象徴主義は西洋から輸入されたままのものではなく、第二次世界大戦という極限状況の中で得られた体験を経ることによって変貌を遂げた、特殊な形態のものであるということが理解された。このように、その時代の状況を考慮するということが、フランス象徴主義の受容研究には極めて重要であるということが理解された点で、今年度の研究は極めて意義のあるものであったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度以降も同様の形で研究会あるいは公開講演会を開催し、当該の研究を続行していく予定である。また、研究内容をさらに公にするために、23~24年度の研究内容をまとめた冊子を24年度末に発行、25~26年度の研究内容をまとめた冊子を26年度末に発行、最終年度は27年度末に一冊発行するという形態を取る予定である。発行した冊子は関係機関や関係する研究者に発送し、研究内容に関してご意見を伺う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度も研究会(または公開講演会)を二回開催する予定である。予定としては、春に一回、秋に一回開催するか、あるいは秋に二回開催するという形になるだろう。また、平成24年度は平成23年度に開催した公開講演会と合わせて、2年分の講演会の原稿を一冊の冊子にまとめ、年度末に刊行する予定である。この冊子の編集作業が平成24年末から始まり、翌年初頭に校正作業を終了し、年度末には印刷・発行をする予定である。ということで、研究会(または公開講演会)のための旅費、およびこの冊子の印刷・発行作業に研究費が使用されることになるだろう。
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