研究課題/領域番号 |
23520428
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松本 健二 大阪大学, 世界言語研究センター, 准教授 (00283838)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ラテンアメリカ文学 / アヴァンギャルド / ペルー / 現代詩論 |
研究概要 |
本研究の目的であるペルーの前衛詩人セサル・バジェホの中期言説、なかでもとりわけ詩集『トリルセ』に見られるメスティソ(混血)性を検証するに当たって、23年度は主として下記の3点を研究計画とした。 1)先行研究の整理検証:これについては、現在の研究史で重要な意義をもつカテドラ版注釈つき『トリルセ』(1991)以降に発表された博士論文を27点購入したが、結果として、従来型の解釈あるいはポスト構造主義的な文体論を凌駕する議論は提示されてないことが判明した。逆に言えば、バジェホの文体にメスティソ的混合文化がデザインとして組み込まれているとする本研究の一定の独自性が、確かめられたと言える。 2)1910年代のメスティソ言説に関する論考のリスト作成:これについてはすでに手持ちの文献に加えて平成24年3月21~29日にリマへ出張し、ペルー・カトリック大学などで資料調査を加えることで、特にリマ市の近代化とそれに伴う民族文化の再編成という現象に注目し、地方人口のリマへの集中化という観点でバジェホ自身の移動(山岳部サンティアゴ・デ・チュコから沿岸部小都市トルヒーヨへ、さらに首都リマへ)の痕跡を見た場合に、移動に伴う故郷喪失感と同時に新たな生活のトポスを模索する過程が詩作に反映されていることが判明した。 3)上記の資料整理、検証を踏まえたうえで、『世界言語センター論集』7号(24年3月刊行)に論文「糞のアマルガム―セサル・バジェホ『トリルセI』に関する一考察」を発表した。これは『トリルセ』でもっとも難解とされる巻頭の詩に関する解釈の変遷を精査した上でその問題点を指摘し、特に、詩全体の意匠(デザイン)により明確な言説を与えていくことの意義を強調した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記したように、23年度研究計画の主要3項目(文献の取得、その文献の整理、その文献に基づく論文発表)はおおむね達成している。
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今後の研究の推進方策 |
23年度に次年度使用額約10万円が発生したのは資料購入の見積額が為替などの影響で実際の支出額とのあいだにずれを生じさせたことによるもので(旅費は当初見積額とほぼ同じ)、これについては24年度の資料購入額に上乗せする形で、当初研究計画書に記載する際に想定した資料の範囲を若干拡大し、適宜見積もりを修正したうえで、適切に執行する予定である。 資料収集およびその整理、そしてそれに基づく論文刊行という手順は23年度と同じであり、今後は論文など以外にも海外学会での発表などを含めて成果公開方法の多角化を視野に入れて、研究を継続する予定である。研究計画書では2度の海外渡航を計上しているが、諸般の都合で1回になることも予測され、そのための措置として最初の渡航時に入手すべき資料の所在を明らかにし、国内からも取り寄せが可能な状態にしておくこととする。 成果公開方法は研究計画書のとおり論文刊行を中心とするが、国際学会での発表の可能性を常に探り、公開ルートの多角化を24年度中に模索しておくこととする(成果公開ルートの多元化は具体的には25年度の研究計画に予定している)。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画書の24年度計画に基づき、また23年度の進捗状況を鑑みて、およそ下記の手順で進めることとする。 1)国際イスパノアメリカ文学会議での成果公開:24年4月25日~26日とメキシコのトラスカラ大で開催されるセサル・バジェホ研究をメインテーマとする上記学会で、「メスティソ的規範としてのトリルセ(Trilce como paradigma mestizo)」の題で本研究成果の一端を公開する予定。 2)1924年以降の渡欧後のバジェホに関する資料の集中的な確保。 3)2000年以降に公開されている博士論文などの二次資料の確保(1990年代のものは23年度に取得済み)。 4)シュルレアリスムと国際義勇軍に関してバジェホと関係する言説を網羅するデータベースの構築。 5)上記の資料精査に基づく論文刊行。今年度は『トリルセ』を離れて渡欧後のバジェホの言説に焦点を絞って研究を行い、特に従来の先行研究で見落とされがちであった、バジェホにおけるアヴァンギャルドの文脈を離れた詩の意匠性、すなわち本研究テーマの核心であるメスティソ性を明らかにすることを目標とする。
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