研究課題/領域番号 |
23520648
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
池上 摩希子 早稲田大学, 日本語教育研究科, 教授 (80409721)
|
研究分担者 |
川上 郁雄 早稲田大学, 日本語教育研究科, 教授 (30250864)
齋藤 ひろみ 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (50334462)
石井 恵理子 東京女子大学, 公私立大学の部局等, 教授 (90212810)
野山 広 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (40392542)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2016-03-31
|
キーワード | 協働実践研究 / JSL / 支援システム |
研究概要 |
本研究の大目標は「日本語を第一言語としない児童生徒に求められる、日本語で学ぶ力とは何か、を立場の異なる実践者との協働的実践を通して明らかにする」というものである。そのために、1.調査 2.実践 3.成果報告 の3つの局面を構成し、段階を踏みつつ、必要であれば同時並行でも調査研究を行っている。 研究初年度にあたる平成23年度は、1.は浜松市における調査、2.は浜松市のA小学校における実践を中心とした。浜松市における児童生徒に対する日本語指導としては、多様な支援者グループによる多様な支援が実施されている現状がある。しかし、各支援が有機的な結びつきをもって機能しているわけではないことも指摘されていた。この点を明らかにし、支援システムとしてのあり方を検討するために、研究代表者と分担者で、日本語担当教員、管理職、ボランティア、教育行政担当者などにインタビューを進めている(継続中)。また、その浜松市内のA小学校で「算数科の学習を通して育成できることばの力」を重視して実践を行うNPOグループの活動へ、関与と協力を行っている(継続中)。これらの調査と実践を進める中で、複数の学校の日本語担当教員の協力を得て、指導実践の記録の収集と蓄積を行うことができた。現在、実践記録を中心にインタビューを補足データとし、全体を書籍の形にまとめている(今秋刊行予定)。これが3に該当し、ここまでの成果報告となる予定である。 浜松市以外の地域については、三重県鈴鹿市において、中学校でのJSLカリキュラムの実践に協力を行っている。平成23年度は教育委員会との連携のもと、JSLカリキュラム普及のための研修や中学校の校内研修に参加、協力をし、中学校現場との関係性構築に努めた。この働きかけは今後も継続して行っていく。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記の達成度を上げた理由としては、まず、浜松市での調査がほぼ予定通り進んでいることと初年度の成果をまとめる目途が立っていることをあげる。しかし、実践に関して、「算数科」のNPOグループの教室において、実践記録をまとめる計画が進んでいないことから、達成度を十二分なものと評価することは難しいとした。研究代表者がNPOグループの活動へ関与していることにより、記録の記述方法や内容に変化が見られてはいるが、グループの構成員が新しく加わったり派遣先の小学校がA小学校以外にも広がったりして、支援活動全体に動きが出てきている。また、市の教育行政との関係も流動的であるように見受けられる。この点を考慮に入れ、結果を急ぎすぎることのないよう進めていく必要があると判断した。 成果報告のまとめについては、平成24年の書籍の出版を待たずに、より身近な範囲ででも発表や報告会などの形で行いたいところではあったが、各方面へ内容を公にする許可を求めるなどの事情もあり、いたしかたない時期となった。また、三重県鈴鹿市における研究活動の対象は中学校中心となり、平成24年度以降に本格化させる予定である。よって、平成23年度に作ることができた学校や担当教員、支援者との関係をもって、今後、調査と実践を進めていければよいと考えている。市教育委員会との連携は今後も継続できるので、これを軸としてより具体的な計画を整えていけば、達成度もあがるものと考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究は、日本語を第一言語としない児童生徒を対象とする教育実践に携わる、多様な立場の支援者と協働して行われている。よって、各関係方面との良好な関係の構築が必須であり基本となる。ここまで、浜松市、鈴鹿市の教育委員会と学校現場との関係を良好なものとすることができ、この関係をベースに研究を進めることができている。今後は、この関係を保ちつつ、対象とする校種を高校に広げていく必要がある。この場合、県単位での関係性構築が新たに求められると考えられるが、静岡県、三重県の両県を対象とするより、どちらかに絞ることを計画している。小学校、中学校との連続性を見るうえで、鈴鹿市は中学校を研究対象としていることから三重県を候補としてあげている(鈴鹿市の小学校に関しては平成23年度以前から関わりがある)。同時に、神奈川県も視野に入れたい。これは、研究代表者がこれまで調査活動を行ってきた実績がある県であり、代表者と分担者が支援協力を行ってきた高校がある県であるという、このふたつの理由による。このように、これまで継続して積み上げてきた関係を基盤にして、調査と実践を進めていく。 浜松市に関しては、平成24年度以降、研究を推進するにあたり、一点、変更が生じている。研究協力者として関わっているA小学校の教諭が平成24年3月に退職されたことである。ただし、これはむしろ発展的な変更と捉えることができる。大学院進学のための退職であり、退職後もボランティアとしてA小学校に関わり、共に実践研究を進めることができるというのがその理由である。浜松市における調査と実践は「達成度と理由」でも述べたように、「算数科」のNPOグループの教室において実践記録をまとめる計画が進んでいないのであるが、今回の発展的な変更によってこの計画を進めることができると考えている。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本研究においては、国内各地の教育実践現場を訪問し、調査と実践を進めていく活動が軸となっている。よって、計上している研究費は旅費が主となっている。訪問先は静岡県浜松市、三重県鈴鹿市が中心であるが、打ち合わせに首都圏で集まることもあり、そのための研究協力者の旅費も計上している。次年度に浜松市、鈴鹿市を訪問する回数は、当初、浜松市4回、鈴鹿市3回を計画していた。しかし、平成23年度に始めた浜松市におけるインタビュー調査を次年度も継続して実施するため、浜松市訪問の回数を計画よりも増やすことを考えている。鈴鹿市に関しては、教育委員会からの招聘を受けるケースもあるため、研究費の使用は2回となっても実施計画に支障はない。このように調整すれば、浜松市を訪問する回数を確保できると考えている。また、研究分担者が海外においてJSL児童生徒の実態調査を行うことも視野に入れている。この場合の訪問地域は、補習校などがあり在住日本人が多いところ、これまでも調査に赴いた実績があり縦断的な調査として成果が認められるところを想定している。 研究補助として計上している費用は、インタビューの文字起こしなど調査結果の処理に使用する人件費が主なものとなる。大規模な研究集会はさらに調査を進めてから実施する予定であるので、こうしたことへの利用は次年度は計画していない。その他、資料としての書籍や若干の備品を購入する必要が出た場合のために経費を積算してあるので、適宜、これを使用する予定である。
|