近世は、「兵」(武士)と「農」(百姓)が身分だけでなく、居住区域も都市と農村と分離される社会であるが、実際には農村部に身分的中間層である「牢人・郷士・地侍」が居住する。かれらは、独自な身分意識をもって「家」の系図、家譜、家伝記を書き残している。その意識を、信濃国伊那郡の諸家と山城国葛野郡川嶋村革嶋家を対象に調査・分析し、「家」の歴史を叙述する行為が、「家」意識の表出や村の「百姓」との差別化だけでは解明され得ないこと、むしろ18世紀半ばに自覚された自らの「身分」への疑問、すなわち兵農分離体制に対する疑問の表明であることを明らかにした。
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