研究課題/領域番号 |
23520840
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
伊藤 俊一 名城大学, 人間学部, 教授 (50247681)
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キーワード | 室町期荘園制 / 代官請負制 / 荘園経営 / 水害史 |
研究概要 |
研究計画に従い、本年度も主として所属研究機関に架蔵されている史料集・写真帳を使って、東寺領・相国寺領をはじめとする荘園代官の任免についての史料を収集し、データベースにその概要を入力した。これらのデータについての分析は来年度以降の課題であるが、応永初年から禅僧等による請負代官が一般化するが、応永末年から任期の短期化や、禅僧・守護・国人に加えて商人・土豪など多様な階層の流入などの傾向が見られる。 また代官による荘園経営について、特に応永末年以降の未進発生の状況や、水害による耕地・用水路の毀損からの復興に注目しながら実態の解明を進めた。その結果、応永末~嘉吉初(1427~1443)に未曾有の水害が集中したこと、不在名主の増加や代官の不在や機能不全による耕地・用水路の整備不足が、水害の被害を大きくした可能性が高いことが明らかになった。 水害が一段落した嘉吉年間以降には、「再建屋」と規定できるような商人・禅僧出身の代官が在地勢力と結んで百姓を駆使して再開発するが、短期間で交代してその成果が蓄積されなかったこと、村落間の話し合いで用水系統の再構築が行なわれた地域もあり、こちらの方が復興の成果が継承されたことが明らかとなり、気候変動による水干害という外部要因が中世後期の社会に賦課を与え、対応できない場合はその復興の過程から変革が生まれたという仮説が得られた。 これらの成果の一端について研究会で報告し、他の研究者より有益な助言を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
荘園の代官請負についてのデータベースの構成も固まり、事例の入力が進んでいる。また代官請負制の変質の要因や代官による荘園経営についての知見も蓄積され、その一端が研究会で報告できる段階に達している。
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今後の研究の推進方策 |
代官請負に関する史料の広範囲な収集と請負事例についてのデータベースの作成をこれまで通り続ける。来年度は学内に架蔵されていない史料の収集に着手する。データベースに見られる代官請負の傾向についての分析も進める。また代官による荘園経営や再開発の特徴的な事例について、応永末年からの水害とその復興に注目しながら研究論文を執筆する。
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次年度の研究費の使用計画 |
デスクトップパソコンについては今年度も購入を見送ったが、データベース作成の効率化のため、ドキュメントスキャナも合わせて購入する予定である。研究室・学内に架蔵されていない史料刊本の購入を進め、学外の史料所蔵機関への調査出張も実施する。また代官による荘園経営や再開発の実態を明らかにするため、荘園の現地調査の出張も実施する。
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