研究課題/領域番号 |
23520995
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研究機関 | 尚美学園大学 |
研究代表者 |
坂本 邦彦 尚美学園大学, 総合政策学部, 教授 (20215643)
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キーワード | ケニア / タイタ |
研究概要 |
ケニア東南部の山地農耕民タイタ人の世界に関する文化人類学的研究の一環として、タイタ語の伝統語彙に対する理解の度合いが世代間でどのような差異を生じさせているかに関し、発話記録を通して分析することが本研究の目的である。これは、これまでにおこなってきたタイタ語の語彙や文法構造などの文字化され、記述された言わば静的な言語データを中心とする標準的タイタ語のコーパスに関する研究の次の段階として位置づけられるものであり、現実世界におけるタイタ語に内在する動的側面としての差異性を研究対象とする。 研究目的の達成のために、4年間の研究期間を3つの段階に分けて進めていく。平成23年度においては、第1段階として、既に文字化して採録している言語データのうち基礎語彙2000語の中から1000語を抽出して内容により再分類し、語群に編成した。平成24年度においては、第2段階として、世代間継承の視点からタイタ語を記録し、第3段階では、記録したデータの分析をネイティヴ・スピーカーとおこない、研究全体をまとめていくことを予定している。 平成24年度は、前年度において研究の第1段階として、これまでの研究のなかで既に採録している言語データを内容により再分類し、AB各500語の語群に編成するうえで、再検討すべき個所が出てきたため、それを補完することから始めた。それを進めていくにつれ、既収録語彙の分類方法に関して、大幅に見直す必要が生じてきたため、今年度においては、これまでの研究に加え、新たな語彙調査票を参照しながら組み換えを行った。そのため、第2段階として想定していた内容に関しては、多少先送りする形になったが、研究期間の中で十分修正が可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで行ってきた語彙調査票における分類方法に加え、今年度は、新たな分類方法を加味して全体の再構成を試みた。これは、当初の研究計画にはなかった部分であるが、研究の遂行には必要であり現時点でそれに取り組むことは研究目的の達成のために十分有効であると判断して取り組むこととした。 期間と内容は、次のとおりである。平成24年4月~7月:タイタ語の基礎語彙の再分類をおこなった。前年度において終了することができなかった部分を補完した。平成24年8月(15日間):ケニアでの調査研究、現地調査協力者とともに調査対象とする語群と調査方法の確立、調査。今回も、昨年同様、滞在期間を予定していたよりも十分にとることができなかった。そのため、面接調査の時間が限られてしまった。夏の調査において、分類方法の修正の必要性を感じ、分類項目の再構築に取り組むことを開始した。平成24年9月~平成25年2月:これまで収録してある語彙を22項目にわたり再分類を行うことに着手した。夏の調査では、当初予定していたタイタとナイロビの比較検討に関わるデータ収集まで取り組むことができず、都市におけるデータ収集は未着手の状態である。平成25年3月(10日間):ケニアでの調査を村落部で行った。現地滞在時期が、当地での総選挙にあたっていたため、都市間の移動に困難が生じたこともあり、村落部分での調査に限定して行うこととした。都市と村落の比較研究という視点での調査を今年度開始することができなかったが、次年度に繋げていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
3言語併用の多言語社会に生きているタイタ人にとって、タイタ語、スワヒリ語、英語のどの言語をどの場面で使うかは、世代により異なることが予想される。また、タイタ語の語彙のうち、どのような語彙が継承され、どのような語彙が言語表現の手段として使用されなくなっているのか、これを、性差、年齢差を考慮しながら村落地域であるタイタヒルズと、都市であるナイロビで生活しているタイタ人を対象として比較調査を行うことが今後の研究に関わる重要な部分になる。これまでは、村落地域を中心としてフィールドワークを展開し、その中で、地域間の差異を捉えることを念頭に置いた語彙の収集を行ってきた。これを都市との比較研究に発展させる背景には、自らの出身地域と強いきずなを維持し続けていくという都市と村落の関係が、出稼ぎ民に対する対応や、儀礼に関わる事象などにおいてこれまでも指摘されてきたが、それを言語環境の変化の中で明らかにしていくという視点がある。言語の継承には個人差が大きいと考えられるが、定量的な統計分析によらずに考察を進めるために、調査対象者は系譜関係で辿ることができる一群の集団とし、そのライフヒストリーに照らして継承の実態を明らかにしていく手法をとる。そこには、タイタ語の研究として一般化できるものとそうでないものが出てくると予想されるが、文化変化を言語を介してとらえる試みとしては、まず、個別の事例を蓄積していくことが必要であると考えられる。これを通して、多言語併用社会における文化変化の分析視点を確立していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究の第2段階目にあたる平成25年度の研究では、昨年度の継続としてタイタ語の伝統語彙の世代間継承の実態を記録する。話者の性差、年齢差、地域性によりタイタ語の継承にどのような差異が生じているかに関し、伝統語彙のうちのA群(1-500)の再整理と、B群(501-1000)を対象として記録していく。平成25年4月~7月:①A群(1-500)の再整理とB群(501-1000)前半の内容整理を行う。平成25年8月~9月:ケニアでの調査研究 タイタヒルズとナイロビで年齢層の異なるタイタ人各3名を対象に現地調査協力者とともに①B群前半の記録を行なう。そのために、ケニアでの現地調査を計画している。研究費の旅費をここに充当する。平成25年10月~平成26年2月:①B群(501-1000)前半のデータ分析、②B群(501-1000)後半の内容整理。この間は、現地調査に基づくデータ分析の期間になるが、適宜、メールでのやり取りを加えながら進めていく。平成26年3月:ケニアでの調査研究を行う。タイタヒルズとナイロビで年齢層の異なるタイタ人各3名を対象に現地調査協力者とともに②B群後半の記録を行なう。これが、平成25年度の2回目の現地調査となる。 このように、昨年度と同様な間隔で、平成25年夏と、平成26年春の2回、ケニアでのフィールドワークを予定しており、直接経費の旅費(1,060,000円)、および、人件費・謝金(100,000円)をそれに充当させる。平成24年度からの繰越金(203,076円)は、平成25年度の旅費に充当する。その他、現地での出版物の購入など、日本では入手困難な資料の収集に研究費を使用していく予定である。
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