研究課題/領域番号 |
23530096
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大久保 邦彦 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (60258118)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国際情報交流(オーストリア) / 動的体系論 / オーストリア法 / 比較法 / 民法 / 損害賠償 / 不法行為 / 法学方法論 |
研究概要 |
平成23年度は、(1)歴史上初めて立法に動的体系論を投入しようとしているオーストリア損害賠償法討議草案の全体像を把握し、(2)その立法のスタイルをめぐる議論を検討したほか、(3)比較法と法ドグマーティクに関する議論を検討することを通して、動的体系論による立法の方法論的基礎を探究した。 まず、(1)については、Griss/Kathrein/Koziol(eds.), Entwurf eines neuen oesterreichischen Schadenersatzrechtsを通読したほか、関連文献を検討するによって、討議草案の全体像を把握した。また、最終的には討議草案に結実することになるヨーロッパ不法行為法グループの文献を登場順に検討することにより、動的体系論による立法の方法論的基礎が浮かび上がってきた。この基礎は、国内法の立法の際に外国法を参照する方法に関わるもので、極めて重要な問題である。 (2)については、Reischauer/Spielbuechler/Welser, Reform des Schadenersatzrechtsなどの主要文献を検討した。討議草案に対する批判の多くは、動的体系論に対する誤解に基づくものだが、根本的な対立点として、民事法の名宛人は一般市民か法曹かという問題に関する対立と、法概念でなく法原理を立法に直截に表現することの当否に関する対立があることを突き止めた。この議論は、わが国の立法のあり方(特に債権法改正)に示唆を与えるものである。 (3)については、比較法に関する主要な邦語文献を検討した後、比較法と法ドグマーティクに関するドイツ・オーストリアの議論を検討している。現在はそのうち、(1)で浮かび上がった動的体系論による立法の方法論的基礎に関連する部分をまとめることによって、論文を執筆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、平成23年度の課題としていた(1)オーストリア損害賠償法討議草案の全体像の把握は達成したが、(2)その立法のスタイルをめぐる議論の検討は、やや深みに欠ける状況にある。というのは、討議草案に対する批判には、動的体系論に対する誤解に基づくものが多く見られる一方で、もっともだと思われる批判には、根本的な立場の違いが反映しているため、問題に対するアプローチの仕方を模索している状況にある。根本的な立場の違いというのは、上述の民事法の名宛人の問題と、法概念でなく法原理を立法に直截に表現することの当否に関するものである。 しかし他方で、当初、平成24年度の中心課題として考えていた、ティルブルク・グループ~コツィオール・グループが、動的体系論を法統一に適した方法論的な基礎とし、オーストリア損害賠償法改正草案において固定的構成要件ではなく動的体系論を立法のスタイルとして投入するに至った経緯と理由を明らかにする作業がかなり進んだので、総合的にみると、研究は順調に進んでいる。研究の順序を変更したのは、研究の途上で、後者の問題に関わる重要な文献を発見したこと、そして、こちらの問題がより重要であると判断したことに基づく。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度はまず、動的体系論による立法の方法論的基礎に関連する論文を完成させ、公表する。 次に、ヨーロッパ不法行為法グループの文献を登場順に検討するという作業を継続する。比較法学者であるツヴァイゲルトとケッツが、比較法方法論として制度比較という方法を採用しているのに対して、本グループは制度比較を補完する要素比較という方法を採用しているが、この要素比較という方法が実演されている実例を、わが国の損害賠償法にとっても興味深い事例で詳細に紹介することを計画している。 最後に、平成23年度にはやや不十分な状態にとどまったオーストリア損害賠償法討議草案の立法のスタイルをめぐる議論の検討を深める。法概念でなく法原理を立法に直截に表現することの当否に関しては、(1)外的体系と内的体系の関係に関する議論と、(2)不当利得の三角関係の問題に関し、カナーリスが給付概念による解決でなく、その背後に控えている法原理を直截に参照することにより、原因関係説を主張したものの一般的な承認を得られなかった経緯の検討を手がかりにしたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度と同じく、研究費は主に図書の購入に充てる。当初想定したよりも小国オーストリアの図書は高価だったため、平成23年度に購入できなかった重要文献がある。また、平成23年度は主にヨーロッパ不法行為法グループの文献を収集したが、平成24年度は、ヨーロッパ不法行為法の統一のために活動している別のグループの文献を収集したい。。 収集している外国文献は、主にドイツとオーストリアのものだが、特にオーストリアの文献については日本では情報が不足しているため、1週間から10日程度オーストリア・ドイツに渡航し、大学図書館・法律専門書店等で資料収集を行う。その際、可能であれば、オーストリア損害賠償法討議草案の起草に関わった中心人物であるヘルムート・コツィオール教授にインタビューを試みたい。
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