研究課題/領域番号 |
23530096
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大久保 邦彦 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (60258118)
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キーワード | 国際研究者交流(墺太利) / 動的体系論 / オーストリア法 / 比較法 / 民法 / 損害賠償 / 不法行為 / 法学方法論 |
研究概要 |
平成24年度はまず、「動的体系論による立法の方法論的基礎」と題する論文を公表した。この論文では、次の点を明らかにした。比較法学者であるツヴァイゲルトとケッツは、周知のように、比較法の方法として機能的比較を提唱し、種々の法秩序は社会で生じる本質的に同一の事実問題を結論が同じ場合でも非常に異なった仕方で解決していることを明らかにした。そして、種々の法秩序の比較可能な諸制度を、広汎な上位概念のもとに包括した(この方法を「制度比較」と呼ぶ)。それに対して、動的体系論による立法の推進者たちはさらに、比較可能な諸制度の基礎にある諸々の評価観点を明らかにしようとする(この方法を「要素比較」と呼ぶ)。つまり、動的体系論による立法は機能的比較法の発展形態である。また他方で、動的体系論の主唱者は、社会で生じる本質的に同一の事実問題が種々の法秩序において結論が同じになるとは限らないことが指摘した。動的体系論による立法は、「要素比較」の方法と国内法の判例・学説から得られた諸々の評価観点を、法律に明示しようとするものである。 次に、8月にオーストリアに渡航し、ウィーン大学図書館・法律専門書店で資料収集をするとともに、オーストリア損害賠償法討議草案の起草に関わった中心人物であるヘルムート・コツィオール教授にインタビューを行った。渡航前に、オーストリア損害賠償法討議草案に対する反対草案が別のグループから出されていることまでは把握し、その検討もしていたが、その後司法省の民事局長により討議草案と反対草案に対する折衷草案が出されているとの情報を得、関連文献の提供を受けた。帰国後はこの折衷草案に検討を加える作業を中心課題とし、その成果を論文にまとめつつある。 そのほか、ヨーロッパ不法行為法グループの「ヨーロッパ不法行為法原則」の検討や、その原則の基礎となった諸論文の検討を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、平成24年度に公表を予定していた論文を公表することができた。 次に、コツィオール教授にインタビューをすることにより、オーストリア損害賠償法の改正作業に関する最新の情報・文献を得ることができ、最新の折衷草案について、十分な検討を加えることができた。その半面で、ヨーロッパ不法行為法グループの文献を検討する作業は、当初予定していた「登場順に」の検討が困難な状況になっているが、検討自体は継続している。 最後に、平成23年度の「研究実施状況報告書」において「今後の推進方策」として掲げた「要素比較」という方法が実演されている実例の紹介については、あまり作業が進まなかった。他方で、法概念でなく法原理を立法に直截に表現することの当否に関しては、損害賠償法の内的体系に対する検討を行い、一定の成果が上がった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、本事業の最終年度であるので、立法に動的体系論を用いることに対する評価と、わが国への導入可能性について、一応の見通しを論文の形で公表する。 また、フランツ・ビトリンスキーが、法規定の一部を動的に形成することは、動的な法思考の範疇には入るけれども、本来の動的体系とは区別されるべきである、本来の意味における動的体系の「要素」は、個々の法規定というミクロの平面ではなく、法制度・法領域全体の基層であるマクロの平面で見出されるべきである、と述べているが、オーストリア損害賠償法討議草案で用いられている動的体系論が、本来の意味のものか否かについて、検討を加え、論文を公表する。 次に、ヨーロッパ不法行為法グループの文献を検討するという作業を、引き続き行う。その際、特に、原発事故以来わが国でも注目を浴びている原子力損害賠償に関する議論に重点を置く。 法概念でなく法原理を立法に直截に表現することの当否に関しては、この研究を通して「原理」という概念が多義的に用いられていることが浮かび上がってきたので、その点の研究を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23・24年度と同じく、研究費は主に図書の購入に充てる。引き続き、ヨーロッパ不法行為法グループの新たな文献を収集するほか、ヨーロッパ私法統一のために活動している別のグループの文献の収集を継続する。また、本研究に関連する法哲学や法学方法論に関する文献も収集する。 収集している外国文献は、主にドイツとオーストリアのものだが、特にオーストリアの文献については日本では情報が不足しているため、1週間から10日程度オーストリア・ドイツに渡航し、大学図書館・法律専門書店等で資料収集を行う予定である。その際、可能であれば、オーストリア損害賠償法討議草案の起草に関わった中心人物であるヘルムート・コツィオール教授にインタビューを試み、オーストリア損害賠償法の改正作業に関する最新の情報を収集したい。
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