平成25年度は「損害賠償法の内的体系と動的体系論による立法」という論文を公表し、次の点を明らかにした。フランツ・ビトリンスキーは、法規定の一部を動的に形成することは、動的な法思考の範疇には入るけれども、本来の動的体系とは区別されるべきである、本来の意味における動的体系の「要素」は、個々の法規定というミクロの平面ではなく、法制度・法領域全体の基層であるマクロの平面で見出されるべきである、と述べている。そこで、本論文では、まず損害賠償法の基層にある内的体系を描き出し、「ヨーロッパ不法行為法原則」とオーストリア損害賠償法討議草案において採用されている動的体系論が本来のものか否かを探った。そして、その否定的な結論を踏まえ、動的体系論による立法について、次のような評価を行った。すなわち、両草案における「動的体系論による立法」は、基礎評価が不足しているため、うまく機能しない可能性が高い。「動的体系論による立法」を行うにしても、より多くの基礎評価を固定的ルールの形で示す必要がある。「動的体系論による立法」の主導者は、動的体系論による規定を主たるもの、基礎評価を示す規定を従たるものと見ているが、逆に基礎評価を示す固定的ルールを主たるものと見、基準となる諸々の評価観点をも法律に明示すべきだと考えるならば、現在の立法スタイルとも連続性が保たれ、動的体系論による立法の目的も達せられる。従来の固定的ルール及び一般条項による立法と「動的体系論による立法」とを組み合わせ、基準となる評価観点を法律に明示するならば、法解釈の幅が狭められるため、制定法の解釈、法の継続形成、一般条項の具体化の際に、より正義にかない、より効率的で、より安定した法解釈が可能になる。わが国の立法においても、かかる立法スタイルの採否が検討されてよい。
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