本研究課題では、初期近代イギリスにおいて実践哲学がどのように形成されたかを、サー・ウィリアム・テンプルとハリファクス侯の政治的賢慮概念の分析を通して考察した。その結果、(1)テンプルは抽象的な政治理論を退け、経験と常識を基調とする穏健で賢明な統治のあり方を模索していたこと、(2)中庸と寛容を重視するテンプルの実践哲学は、教養形成期に基礎づけられていたこと、(3)テンプルの学問論や庭園論に、彼の政治的賢慮概念との密接な関連性を見てとることができること、(4)日和見主義者を自認したハリファクスの思想には、テンプルと同様の貴族主義的な賢慮概念が豊かに包蔵されていたことが明らかになった。
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